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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0159A01: 若腹をもきり命をも捨て。後世は助からんずるぞと
J17_0159A02: 承らば。やがて腹をも切らん料也とぞ申ける。法印
J17_0159A03: 此事を聞きたまひて。さる高名のものなれば。定め
J17_0159A04: て存知あるらんとて。後生助かる道は法然房に可
J17_0159A05: 被尋とて。使をそへて上人に引導せられければ。
J17_0159A06: 上人へ參り。後世の事を尋申けるに。念佛だにも申
J17_0159A07: せば往生はする也。別の事なしと仰られけるをうけ
J17_0159A08: 給て。さめざめと泣ければ。けしからず思召て物を
J17_0159A09: もおほせられず。暫く有て後。何事にて泣給ふそと
J17_0159A10: 仰られければ。命をも捨て手足をも切てぞ。後生は
J17_0159A11: 助からんずるとぞ承らんずらんとぞんずる所に。只
J17_0159A12: 念佛だにも申せば往生はするぞとやすやすと仰をか
J17_0159A13: ふむり侍れば。餘にうれしくて泣き侍るよしを申け
J17_0159A14: る。一文不通のあら武者なりといへども。誠に後世
J17_0159A15: をおそれたるものと見えければ。無智の罪人の念佛
J17_0159A16: 申て往生すること。本願の正意なりとて。口稱念佛
J17_0159A17: 凡夫直往の要路なるよし。常に示し給ひければ。二
J17_0159B18: 心なき專修の行者にてぞありける。もし命をもすて
J17_0159B19: 後生助かれとならば。腹をきらん爲の用意にもちた
J17_0159B20: りける刀をば。念佛申て往生すべきよしを承り定め
J17_0159B21: ぬるうへはとて。上人に參らせければ。上人より津
J17_0159B22: 戸三郞に給て祕藏しける。或時上人月輪殿へ參られ
J17_0159B23: けれは。熊谷入道推參して御ともにまいりけるを。
J17_0159B24: とどめばやと思召けれども。さるくせ者なれば。中
J17_0159B25: なかあしかりぬへしと思食て。被仰旨なかりけれ
J17_0159B26: ば。月輪殿に參りて。くつぬぎに有て。椽に手うち
J17_0159B27: かけ。よりかかりて侍けるが。御談義のこゑの幽に
J17_0159B28: 聞えければ。此入道申けるは。あはれ穢土ほどの口惜
J17_0159B29: 所はあらじ。極樂にはかかる差別あるまじきものを。
J17_0159B30: 談義の御こゑもきこえばこそと。しかり聲に。高聲
J17_0159B31: に申けるを。禪定殿下きこし召して。なにものぞと仰
J17_0159B32: られければ。熊谷入道とて。武藏國より罷のぼりた
J17_0159B33: る曲者にて候が。推參に共をして候とおぼえ候と上
J17_0159B34: 人申されければ。やさしきもの何かくるしかるべ

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