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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0099A01: ば。互に殘害をまねくべし。報酬念念にたへず。輪
J17_0099A02: 迴生生につくべからず。凡そ生者は死をいたむ。我此
J17_0099A03: 疵を痛。人またいたまざらんや。我此命をおしむ。
J17_0099A04: 人豈おしまざらんや。心をおこして人の腹におけば。
J17_0099A05: 我をもて他の心をしりぬべし。昔敎主釋尊も。頭痛
J17_0099A06: 背痛とのたまふ。曠劫の殺罪。佛果になほ餘殃あり。
J17_0099A07: 一念の怨心聖賢其障礙を恐る。今生の妄縁を捨て。將
J17_0099A08: 來の宿報をつぐ事なかれ。梵王の四等を行ずる。慈
J17_0099A09: 心を最とす。世尊の十重をときたまふ。殺生を初に
J17_0099A10: 禁しむ。汝あなかしこ。法師になりて。學問して爺
J17_0099A11: 孃の恩德を報じ。衆生の依怙とならんとおもふべし
J17_0099A12: といひをはりて。心をただしくして。西方に向て高
J17_0099A13: 聲念佛して。ねむるがごとくに息絶にけり。
J17_0099A14: 五 登菩提寺事
J17_0099A15: 當國菩提寺の院主。觀覺得業は。秦氏の弟也。小矢
J17_0099A16: 兒には叔父なり。此兒。父におくれて後は。偏に親
J17_0099A17: 子の如し。愛好して弟子とす。同年の冬。菩提寺へ
J17_0099B18: のぼせけり。はじめて佛敎をさづくるに。性甚岐嶷
J17_0099B19: にして。聞所の事憶持して更にわすれず。
J17_0099B20: 六 爲登山母乞暇事
J17_0099B21: 觀覺。同朋に語て曰。此兒の器量を見るに。常のと
J17_0099B22: もがらに類せず。何ぞ徒に邊國にあらんやとて。久
J17_0099B23: 安三年丁卯年十五歳の春。延曆寺へ登せける。其時。
J17_0099B24: 此兒母に暇をこひて云。母。獨身におはします。我。
J17_0099B25: 一子たり。然朝夕に給仕して。父の形見とも見へ奉
J17_0099B26: るべけれども。登山して佛法修行して。二親をみち
J17_0099B27: びき奉らんとおもふ。今の別をなげき給ふ事なかれ。
J17_0099B28: 流轉三界中。恩愛不能斷。棄恩人無爲。眞實報恩者
J17_0099B29: と承れば。今日より後は戀悲恨み思召べからず。參
J17_0099B30: 河守大江定基は。出家して大唐へ渡り侍し時。老母
J17_0099B31: にゆるされを蒙りてこそ。彼國にして圓通大師の諡
J17_0099B32: 號を蒙り。本朝に聖衆來迎の佳什を傳へしか。ゆめ
J17_0099B33: ゆめ惜思召べからずなど。かきくどき念比にのた
J17_0099B34: まふ。母ことはりにをれて。綠なる髮をかきなでて。

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