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J2190 菩提心集 珍海 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J15_0522A01: ざるしるしなり。誠に母の在すは富るなり。金をつ
J15_0522A02: めれとも母のなきは貧しとす。父の在すは晝なり。
J15_0522A03: 空に日てれども。父逝ぬれば冥き闇の如し。經に又
J15_0522A04: 曰く。左の肩に父をのせ右の肩に母をのせて千年を
J15_0522A05: 經といふも父母の恩をば報ゆるにあたはじ。經に云
J15_0522A06: く。親に孝する功德は補處の彌勒を供養するに等し
J15_0522A07: といふ。然れば少しも供養をいたせば。福を得る事。
J15_0522A08: 量りなく。少しも背けば。罪また量りなし。むかし
J15_0522A09: 慈童女。燒き木を賣て貧しき母を養ひき。日ごとに
J15_0522A10: 二ツの錢を得てこれを養ひ。後には漸く多く得增て
J15_0522A11: 養ふ。寳を求めに海へ往きし人。これが賢きを見て
J15_0522A12: 共にせんといふ。慈童女母にその由を申て暇を乞
J15_0522A13: ふ。母その孝養のこころあるをみて。よもわれを捨
J15_0522A14: 置ては往かじと思ひて。戯れごとに往けと容しつ。
J15_0522A15: 既にゆかんとするに母啼啼だかへて遣らず。童女
J15_0522A16: すでに友と契り畢ぬ。虚言はえせじとて引かなぐり
J15_0522A17: て往く程に母の髮あまた筋かなぐられぬ。遂に海へ
J15_0522B18: ゆきて還へるに友を離れて。ひとり道に迷ひて瑠璃
J15_0522B19: の城にいたりぬ。又如意寳の珠ささげたる女。目出
J15_0522B20: たく淸げにして四人いで來向ひて迎へ入れて四萬
J15_0522B21: 歳。又頗梨の城に八萬歳。銀の城に十六萬歳。金の
J15_0522B22: 城に三十二萬歳づづますます樂む。後にそこを出て
J15_0522B23: 鐵の城に至りぬ。一人の頭に火の輪を戴けるあり。
J15_0522B24: その輪を童女に戴けて去ぬ。又傍に獄率あり。童女
J15_0522B25: これに問はく。此火輪をいつか免るべき。獄率答へ
J15_0522B26: て曰く。世に汝がごとくせる者あらん時にかれ代り
J15_0522B27: て受べし。若代る人なくばその輪つちに墮ちじとい
J15_0522B28: ふ。これらにて母の恩德の程をば計るべし。又山中
J15_0522B29: にて雪にあひて路を失なへりし人。熊の道を敎へて
J15_0522B30: 送り出せるに。山の口に山立する者いき逢ひて鹿や
J15_0522B31: 見えつると問ひければ熊の方に小指をさす。其腕ぬ
J15_0522B32: けて地に墮にけり。まことに恩をはするるは。親に
J15_0522B33: あらぬ者にてもいと口惜き事なり。
J15_0522B34: 問人の子。親をうち捨て山林をまじりて行はんをば

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