浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J15_0522A01: | ざるしるしなり。誠に母の在すは富るなり。金をつ |
J15_0522A02: | めれとも母のなきは貧しとす。父の在すは晝なり。 |
J15_0522A03: | 空に日てれども。父逝ぬれば冥き闇の如し。經に又 |
J15_0522A04: | 曰く。左の肩に父をのせ右の肩に母をのせて千年を |
J15_0522A05: | 經といふも父母の恩をば報ゆるにあたはじ。經に云 |
J15_0522A06: | く。親に孝する功德は補處の彌勒を供養するに等し |
J15_0522A07: | といふ。然れば少しも供養をいたせば。福を得る事。 |
J15_0522A08: | 量りなく。少しも背けば。罪また量りなし。むかし |
J15_0522A09: | 慈童女。燒き木を賣て貧しき母を養ひき。日ごとに |
J15_0522A10: | 二ツの錢を得てこれを養ひ。後には漸く多く得增て |
J15_0522A11: | 養ふ。寳を求めに海へ往きし人。これが賢きを見て |
J15_0522A12: | 共にせんといふ。慈童女母にその由を申て暇を乞 |
J15_0522A13: | ふ。母その孝養のこころあるをみて。よもわれを捨 |
J15_0522A14: | 置ては往かじと思ひて。戯れごとに往けと容しつ。 |
J15_0522A15: | 既にゆかんとするに母啼啼だかへて遣らず。童女 |
J15_0522A16: | すでに友と契り畢ぬ。虚言はえせじとて引かなぐり |
J15_0522A17: | て往く程に母の髮あまた筋かなぐられぬ。遂に海へ |
J15_0522B18: | ゆきて還へるに友を離れて。ひとり道に迷ひて瑠璃 |
J15_0522B19: | の城にいたりぬ。又如意寳の珠ささげたる女。目出 |
J15_0522B20: | たく淸げにして四人いで來向ひて迎へ入れて四萬 |
J15_0522B21: | 歳。又頗梨の城に八萬歳。銀の城に十六萬歳。金の |
J15_0522B22: | 城に三十二萬歳づづますます樂む。後にそこを出て |
J15_0522B23: | 鐵の城に至りぬ。一人の頭に火の輪を戴けるあり。 |
J15_0522B24: | その輪を童女に戴けて去ぬ。又傍に獄率あり。童女 |
J15_0522B25: | これに問はく。此火輪をいつか免るべき。獄率答へ |
J15_0522B26: | て曰く。世に汝がごとくせる者あらん時にかれ代り |
J15_0522B27: | て受べし。若代る人なくばその輪つちに墮ちじとい |
J15_0522B28: | ふ。これらにて母の恩德の程をば計るべし。又山中 |
J15_0522B29: | にて雪にあひて路を失なへりし人。熊の道を敎へて |
J15_0522B30: | 送り出せるに。山の口に山立する者いき逢ひて鹿や |
J15_0522B31: | 見えつると問ひければ熊の方に小指をさす。其腕ぬ |
J15_0522B32: | けて地に墮にけり。まことに恩をはするるは。親に |
J15_0522B33: | あらぬ者にてもいと口惜き事なり。 |
J15_0522B34: | 問人の子。親をうち捨て山林をまじりて行はんをば |