浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J09_0212A01: | を經て。身既に老ぬれば。何となく古郷の戀しさに。 |
J09_0212A02: | 都を指して登らるる。折節嵯峨に貴き僧の。御説法 |
J09_0212A03: | ありとて。貴賤群集しければ。いざさらは結縁せん |
J09_0212A04: | と釋迦堂へ參りて。説法を聽聞せしに。御僧をつく |
J09_0212A05: | づくと見上れば。何とやら古への夫の面影にたちて。 |
J09_0212A06: | 床しかりければ。案内を以て僧正に面見。事の不審 |
J09_0212A07: | を尋ぬれば。僧正具に答て云く。我は是手筥に入て |
J09_0212A08: | 捨られたれば。其父母を知らずと。母の尼聞て大に |
J09_0212A09: | 驚き。懸子を持して。賀茂へ往。古への夫を尋て此 |
J09_0212A10: | 由を語りければ。神主頓て手筥を出し。懸子を合せ |
J09_0212A11: | て見玉ふに。函葢少も違はねば。父諸共に馳參り。 |
J09_0212A12: | 其時初て親子三人。我こそ實の父なれ母なれ子なれ |
J09_0212A13: | と名乘合せし悅びは。誠にきはもなかりしとぞ。其 |
J09_0212A14: | 時の歌に。玉手筥なかにかけこのなかりせはふたみ |
J09_0212A15: | しらへて何かあふへきと。是を本願に凖へば。三十 |
J09_0212A16: | 餘年を經回りしは。二十五有の流轉かも。賀茂の川 |
J09_0212A17: | 原の憂事や。我等偶たま手箱の身を捨らるる情なし。 |
J09_0212B18: | 又も再ひ逢んとは思ひもかけぬ懸子ぞと。菊の蒔繪 |
J09_0212B19: | を知るべにて。救ひし母の大悲こそ。阿彌陀ほとけ |
J09_0212B20: | の爲業なれ。親子三人名乘逢ふ。父子相迎の歡びば。 |
J09_0212B21: | 彌陀來迎の特みぞかし。彼百萬も梅若も。はるばる |
J09_0212B22: | 東のはて迄も。尋ね迷ひしわりなさは。母の慈恩に |
J09_0212B23: | あらざらんや。又良辨や廷昌も。皆是親の大悲にて。 |
J09_0212B24: | 尋ね逢たる例し也。彼妙經の信解の窮子。涅槃經の |
J09_0212B25: | 婆私吒の縁。此等を思ひ合するに。生佛同躰の大悲 |
J09_0212B26: | こそ。親子の情に比べては。一入貴く覺え侍れ。實 |
J09_0212B27: | や子故の思ひには。燒野に歸る雉もあるに。まして |
J09_0212B28: | 平等一子の誓願。同躰大悲の。御悟り深き如來の金 |
J09_0212B29: | 言に。視若自己とはの玉ひつれ。父子相迎にも宣は |
J09_0212B30: | ずや抑法藏五劫に思惟して。父子あひあはん願をお |
J09_0212B31: | こし。彌陀十劫に覺をとなへて。父子あひむかへむ |
J09_0212B32: | ちからをまうけ給ひしよりこのかた。四十八願ねん |
J09_0212B33: | ごろにわが迷い子やあるとよばひ給へとも。二十五 |
J09_0212B34: | 有のうち。いづくにこそここにありとこたふるをと |