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J1360 一枚起請文梗概聞書 関通 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J09_0212A01: を經て。身既に老ぬれば。何となく古郷の戀しさに。
J09_0212A02: 都を指して登らるる。折節嵯峨に貴き僧の。御説法
J09_0212A03: ありとて。貴賤群集しければ。いざさらは結縁せん
J09_0212A04: と釋迦堂へ參りて。説法を聽聞せしに。御僧をつく
J09_0212A05: づくと見上れば。何とやら古への夫の面影にたちて。
J09_0212A06: 床しかりければ。案内を以て僧正に面見。事の不審
J09_0212A07: を尋ぬれば。僧正具に答て云く。我は是手筥に入て
J09_0212A08: 捨られたれば。其父母を知らずと。母の尼聞て大に
J09_0212A09: 驚き。懸子を持して。賀茂へ往。古への夫を尋て此
J09_0212A10: 由を語りければ。神主頓て手筥を出し。懸子を合せ
J09_0212A11: て見玉ふに。函葢少も違はねば。父諸共に馳參り。
J09_0212A12: 其時初て親子三人。我こそ實の父なれ母なれ子なれ
J09_0212A13: と名乘合せし悅びは。誠にきはもなかりしとぞ。其
J09_0212A14: 時の歌に。玉手筥なかにかけこのなかりせはふたみ
J09_0212A15: しらへて何かあふへきと。是を本願に凖へば。三十
J09_0212A16: 餘年を經回りしは。二十五有の流轉かも。賀茂の川
J09_0212A17: 原の憂事や。我等偶たま手箱の身を捨らるる情なし。
J09_0212B18: 又も再ひ逢んとは思ひもかけぬ懸子ぞと。菊の蒔繪
J09_0212B19: を知るべにて。救ひし母の大悲こそ。阿彌陀ほとけ
J09_0212B20: の爲業なれ。親子三人名乘逢ふ。父子相迎の歡びば。
J09_0212B21: 彌陀來迎の特みぞかし。彼百萬も梅若も。はるばる
J09_0212B22: 東のはて迄も。尋ね迷ひしわりなさは。母の慈恩に
J09_0212B23: あらざらんや。又良辨や廷昌も。皆是親の大悲にて。
J09_0212B24: 尋ね逢たる例し也。彼妙經の信解の窮子。涅槃經の
J09_0212B25: 婆私吒の縁。此等を思ひ合するに。生佛同躰の大悲
J09_0212B26: こそ。親子の情に比べては。一入貴く覺え侍れ。實
J09_0212B27: や子故の思ひには。燒野に歸る雉もあるに。まして
J09_0212B28: 平等一子の誓願。同躰大悲の。御悟り深き如來の金
J09_0212B29: 言に。視若自己とはの玉ひつれ。父子相迎にも宣は
J09_0212B30: ずや抑法藏五劫に思惟して。父子あひあはん願をお
J09_0212B31: こし。彌陀十劫に覺をとなへて。父子あひむかへむ
J09_0212B32: ちからをまうけ給ひしよりこのかた。四十八願ねん
J09_0212B33: ごろにわが迷い子やあるとよばひ給へとも。二十五
J09_0212B34: 有のうち。いづくにこそここにありとこたふるをと

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