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J1360 一枚起請文梗概聞書 関通 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J09_0202A01: 信。多く往生す。喩へば世亂れ軍を起し國を打取。
J09_0202A02: 王と成如きは。一旦は威を振へとも。其國安泰なら
J09_0202A03: ず。復亡びやすし。秦の始皇は。六國を平呑し。四海九州を撫しも。幾程なく。項羽高祖に亡されしが如し
J09_0202A04: 又無智の凡夫の。直に佛敎を信して稱名するは。喩
J09_0202A05: へば天守り地受人尊て王と成が如し。史記に云く。大舜姓は姚。字は重華
J09_0202A06: 幼して母を失へり。外には禮讓を護て故を溫ね。内には孝德を收て新を知る。父を瞽膄と云ふ。後妻を娶れり。其腹に生する子を象と云ふ。
J09_0202A07: 奢り第一無道の徒ら者也。瞽膄頑にして。繼母の讒言を容。重華を惡むを甚し。然りといへども。聊かも父母の命を背かず。孝順を盡せども
J09_0202A08: 時時重華を殺さんと計る。或時重華を屋上に昇て。下より火を放ち。燒殺さんとす其時重華兩の笠を翼として飛下て死を免る。又或時重華に
J09_0202A09: 井を堀せて。埋み殺さんと計る。此時も重華。兼て其計り事を知り。銀錢を持て。井の中より。一二文づづ土にませて上ければ。繼母と象と銀
J09_0202A10: 錢を爭ひ取んとて。土をひたすら探り求む。其間に重華は。隣の井の中へ。ぬけ穴を掘ぬ。さて銀錢盡るや否や。土石を落しかけて。殺し了る
J09_0202A11: と思へり。重華は兼て設けたる。傍なる穴より隣家へ遁れ出て逃たりけり。かくて爼上の死を遁れ。刀下の命を全ふせり。然れども父母をも
J09_0202A12: 恨みず。弟をも惡まず。卻て我身を責て。父母我をかくまで厭ひ惡み玉ふ事は。孝行の志淺き故に。天我を誡め玉ふかと。倒れ伏して悲めり。
J09_0202A13: 夫より他國の歷山と云ふ山に隱れ入て。自ら田畠を耕作するに。自然と象は田を鋤。鳥は田を耘る。是に依て九年の畜へ寬か也。其
J09_0202A14: 後父瞽膄は兩眼盲。いよいよ衰老し。處處に流浪せり。其頃世は飢饉して萬民多く餓死す。其上養ふ子も無れば。乞食の體に成て。飢寒に苦め
J09_0202A15: り。重華は尚も父の行末覺束なく。尋ね逢ん爲に。常に市に交り。米を賣りける。此時父の瞽膄。目しひながら市に來て。米を買に。我子の重
J09_0202A16: 華たる事を知らず。重華は兼て父たる事を知て。米の價を取らず。如是なる事數度に及びければ。父怪み問て云く。君は如何なる人なれ
J09_0202A17: ば。かく幾度も米錢を惠み玉ふそやと。重華涙を流して今は何をか密申さん。父母の惡みを蒙りし身なれば。今迄名乘申さねども。御不審を
J09_0202B18: 晴させ申さん。我は是御子の重華也とて。其儘身を地に投臥て悲みける。父是を聞き。大に驚て嘆き呌ぶ。重華重て。偖偖かかる淺間敷御身
J09_0202B19: と成玉ふ事。悲ても尚悲しけれ。若わが孝養の志し虚妄ならすは。皇天皇地。父の兩眼を開きて。親子の對面を致させ玉はれと。深く心中に祈
J09_0202B20: り玉ひ。父の悲の涙にむせべるを。手を柔て拭ひ玉へば。兩眼忽ちに開けて。父子互に目と目を見合せ。相悅ぶ事限りなし。此事天下に隱れ無
J09_0202B21: ければ萬民不思議の思ひをなし。孝行の志を感ぜずと云ふ事なし。遂に時の君。堯帝の上聞に達し。則ち重華を禁廷へ召出され。攝政となし
J09_0202B22: 玉ふ。爰に堯王の御子丹朱は。不肖にして。位を繼。世を治むべきに非ず。堯王在位九十八年。<堯王の崩御百十七歳孔安國堯の壽百一十六歳重華孝行の德を以て。終に太>
J09_0202B23: 子と立。御位を讓り。娥皇女英の二人の姫宮を后妃に成玉ふ。遂に虞舜とは申上る。聖化の德風を以て。一天を治め。仁愛を以て萬民を撫で安
J09_0202B24: んじ玉ふ。爰を以て御在位三十九年の間。刑鞭徒らに朽ち。諫鼓鳥栖りかくて戸ざざぬ御世なれは。落たるを拾はず。五日一風にして枝を鳴
J09_0202B25: さず。十日一雨にして壤を破らず。四海波靜かなる聖りの御世とぞ申しける。詩にも。(孝子傳。日記故事等に禽獸感シ孝行ノ志ヲ助ル耕作ヲ事
J09_0202B26: あり今略之)隊隊トソ耕ス春ニ象。紛紛トシテ耕ル草ヲ禽。嗣テ堯ニ登寳位ニ孝感動天心と云へり。是天守り。地受て。王となるの例證なり。云云
J09_0202B27: さてこそ仰信の人は。生れ乍にして。單直に佛智を
J09_0202B28: 信じ。往生を遂る事。重華が寳位に登り天子と成た
J09_0202B29: るが如し。重華を仰信の行者に喩へ。屋上に昇て。下より火を付。燒殺さんとすると。井の底に在を。石を落し殺さんとす
J09_0202B30: るを。皆人の瞋恚貪欲に着したるに喩ふ。屋上より飛下り。傍に穴を設て爼上の死を遁れ。刀下の命を全ふしたるを。希有に本願の念佛に。回
J09_0202B31: り値て。信受奉行するに喩ふ。象耕し禽耘りて。九年の蓄へ寬か成しは。一尊諸佛加持護念し玉ふ故に。かく安やすと稱名相續するにたと
J09_0202B32: へ。父母を還りて養ひ育みしは。還來穢國。度人天に比すべし。『且又解信の人は。漸く學知
J09_0202B33: の領解を以て。佛智を信して還て。單直仰信の人に
J09_0202B34: 似同するは。馬の鞭に打れて。學解に喩ふ馳るが如く。仰

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