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J1330 吉水遺誓諺論附録正流弁 忍澂 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J09_0056A01: 家を遂畢りぬ。いくほどなくて。大師の禪室に歸參
J09_0056A02: し。常隨給仕すること。首尾十八箇年。大師憐愍覆
J09_0056A03: 護。他に異にして。淨土の法門を敎示し。圓頓戒此
J09_0056A04: 人をもて付囑し玉ふ。是によりて道具本尊坊舍聖敎。
J09_0056A05: 殘る所なく。これを相承せられき。大師終焉の期に
J09_0056A06: 近づき玉ふや。勢觀房曰。念佛の安心。年來御敎誡
J09_0056A07: に預るといへども。なほ御自筆に肝要の御所存。一
J09_0056A08: 筆あそばされて玉はりて。後の御かたみに備へ侍ら
J09_0056A09: んと。申されたりければ御筆を染められける狀に云
J09_0056A10: く。もろこし我朝に等云云。正しき御自筆の書なり。
J09_0056A11: 實に末代の龜鏡にたれるものか。大師の一枚消息と
J09_0056A12: 名けて。世に流布するこれなり。大師御入滅の後は。
J09_0056A13: 加茂の邊り。ささき野と云ふ所に住玉ひけり。其由
J09_0056A14: 來は。大師御病中に。いづくよりともなく。車をよす
J09_0056A15: る事ありけり。貴女車より下りて。大師に謁し玉ふ折
J09_0056A16: 節。看病の僧衆。或はあからさまに立出。或は休息な
J09_0056A17: どして。ただ勢觀房一人。障子の外にて聞玉ひけれ
J09_0056B18: ば。女房の聲にて。今しばしとこそ思ひ玉ふるに。御
J09_0056B19: 往生近付いて侍らんこそ。無下に心細く侍れ。さても
J09_0056B20: 念佛の法門など。御往生の後は誰にか申置かれ侍ら
J09_0056B21: んと申さるれば。源空が所存は。選擇集に載せ侍り。
J09_0056B22: これに違はず申さんものは。源空が義を傳へたるに
J09_0056B23: 侍るべきと。云云。其後しばし御物語ありて歸り玉
J09_0056B24: ふ。其氣色直人とも覺えざりけり。さる程に僧衆歸
J09_0056B25: り參りければ。勢觀房ありつる車の行方覺束なく覺
J09_0056B26: えて。追付いて見いれんとし玉ふに。河原へ車をやり
J09_0056B27: 出して。北をさしてゆくが。かきけすやうに。見え
J09_0056B28: ずなりにけり。あやしきこと限りなし。歸りて大師
J09_0056B29: に客人の貴女。誰人にか侍らんと。尋申されければ。
J09_0056B30: あれこそ韋提希夫人よ。加茂の邊りにおはしますと
J09_0056B31: 仰せられけり。此事末代にはまことしからぬ程に。覺
J09_0056B32: ゆるかたも侍れども。近くは解脱上人。明慧上人など
J09_0056B33: も。かやうの奇特多く侍りけり。此上人は。今少し
J09_0056B34: 宿老にて。行德もたけ。三昧をも發得し玉ひて侍れ

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