浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J09_0056A01: | 家を遂畢りぬ。いくほどなくて。大師の禪室に歸參 |
J09_0056A02: | し。常隨給仕すること。首尾十八箇年。大師憐愍覆 |
J09_0056A03: | 護。他に異にして。淨土の法門を敎示し。圓頓戒此 |
J09_0056A04: | 人をもて付囑し玉ふ。是によりて道具本尊坊舍聖敎。 |
J09_0056A05: | 殘る所なく。これを相承せられき。大師終焉の期に |
J09_0056A06: | 近づき玉ふや。勢觀房曰。念佛の安心。年來御敎誡 |
J09_0056A07: | に預るといへども。なほ御自筆に肝要の御所存。一 |
J09_0056A08: | 筆あそばされて玉はりて。後の御かたみに備へ侍ら |
J09_0056A09: | んと。申されたりければ御筆を染められける狀に云 |
J09_0056A10: | く。もろこし我朝に等云云。正しき御自筆の書なり。 |
J09_0056A11: | 實に末代の龜鏡にたれるものか。大師の一枚消息と |
J09_0056A12: | 名けて。世に流布するこれなり。大師御入滅の後は。 |
J09_0056A13: | 加茂の邊り。ささき野と云ふ所に住玉ひけり。其由 |
J09_0056A14: | 來は。大師御病中に。いづくよりともなく。車をよす |
J09_0056A15: | る事ありけり。貴女車より下りて。大師に謁し玉ふ折 |
J09_0056A16: | 節。看病の僧衆。或はあからさまに立出。或は休息な |
J09_0056A17: | どして。ただ勢觀房一人。障子の外にて聞玉ひけれ |
J09_0056B18: | ば。女房の聲にて。今しばしとこそ思ひ玉ふるに。御 |
J09_0056B19: | 往生近付いて侍らんこそ。無下に心細く侍れ。さても |
J09_0056B20: | 念佛の法門など。御往生の後は誰にか申置かれ侍ら |
J09_0056B21: | んと申さるれば。源空が所存は。選擇集に載せ侍り。 |
J09_0056B22: | これに違はず申さんものは。源空が義を傳へたるに |
J09_0056B23: | 侍るべきと。云云。其後しばし御物語ありて歸り玉 |
J09_0056B24: | ふ。其氣色直人とも覺えざりけり。さる程に僧衆歸 |
J09_0056B25: | り參りければ。勢觀房ありつる車の行方覺束なく覺 |
J09_0056B26: | えて。追付いて見いれんとし玉ふに。河原へ車をやり |
J09_0056B27: | 出して。北をさしてゆくが。かきけすやうに。見え |
J09_0056B28: | ずなりにけり。あやしきこと限りなし。歸りて大師 |
J09_0056B29: | に客人の貴女。誰人にか侍らんと。尋申されければ。 |
J09_0056B30: | あれこそ韋提希夫人よ。加茂の邊りにおはしますと |
J09_0056B31: | 仰せられけり。此事末代にはまことしからぬ程に。覺 |
J09_0056B32: | ゆるかたも侍れども。近くは解脱上人。明慧上人など |
J09_0056B33: | も。かやうの奇特多く侍りけり。此上人は。今少し |
J09_0056B34: | 宿老にて。行德もたけ。三昧をも發得し玉ひて侍れ |