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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0405A01: きとぞいはれける。圓勝寺本順和尚は。もと五右衞
J18_0405A02: 門と同藩の人にて。此事親しく聞たりしとて。をり
J18_0405A03: をりかたり申されき。
J18_0405A04: 或時。和州當麻山。奧院へ請待の事ありけり。例の
J18_0405A05: 遠近踵をつらね。歸信かずをしらず。數日の別行。
J18_0405A06: 事故なく結願す。おもふ所あれば。この序に三輪山
J18_0405A07: に參詣せばやとの給ひて。あらぬ山路をさして立
J18_0405A08: 出玉ふ。案内の者。そは本道にはあらぬをと申せど
J18_0405A09: も。いな此たびは。この道より行ぞとの給へるに。
J18_0405A10: 人人心ならずつき從ひけり。其道すがら。今日。
J18_0405A11: 師の通らせ給ふを。早も知りたりげにて。山邨田
J18_0405A12: 家いづれの處にても。香花燈明を供じ。人人多く立
J18_0405A13: 出て。十念をうけぬ。隨從の僧。不思議がりて。今
J18_0405A14: 日師の通らせ給へる事を。如何にして知るぞと。其
J18_0405A15: 人人に問たるに。この十日あまりさきの日。白髮の
J18_0405A16: 老人來りて。それの日德本といへる行者の。ここを
J18_0405A17: 通行すべきぞ。必十念うけよと告あるかるるにぞ。
J18_0405B18: さの給へるは。誰人にてましますぞと問しかば。
J18_0405B19: 我は行者に松蕈の生ひ出る石を供養したるもの也
J18_0405B20: といはれしと答へき其ころ苔むしたる一奇石を。師に供養したるものあり。この石。手にてたた
J18_0405B21: けば。やがて松蕈おひ出る事。常のやうなり。年經て後。誰もて去りしともあらで。いつしかうせてゆく處をしらずとぞ仄徑
J18_0405B22: 深谷をへて。三輪明神へ參詣せらる。法樂し給ふを
J18_0405B23: りしも。御山の震動すること夥しかりき。師。のた
J18_0405B24: まはく。松蕈石はこの御神の供養し給へりし也と。
J18_0405B25: いと不思議の事なりけり。
J18_0405B26: 文化七年十月のころ。浪華の小橋屋利兵衞後に淸翁といふ
J18_0405B27: いへる人の家に請ぜらる。西宮まで御迎の船など出
J18_0405B28: して。四供養の志いと懇なり。兼て士女雲集の事を
J18_0405B29: はかりしりてや。御逗留の事を。おほやけにも言上
J18_0405B30: したりとぞ。三日の結縁。日夜ひきもきらず。さす
J18_0405B31: がの豪家なれども。家族の居處もなきまでなりけ
J18_0405B32: り。浪花にて。化益の盛なりし事。此家ぞはじめな
J18_0405B33: りし。人靜まりてのち。家族の人人に。さまざまの
J18_0405B34: 御物語ありて。わが護持せるは。九十一億劫むかし

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