ウィンドウを閉じる

J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0391A01: の程にも塵ばかりか殘らずなくなりにけり。抑一業
J18_0391A02: の感ずる處。等同類の虫身をうけ。前𠍴のがれず。
J18_0391A03: 共に當年の殃災に値。因果は影の形に隨ふが如し。
J18_0391A04: 彼を非として。これを是とする事あたはず。扨も回
J18_0391A05: 向の薰力にて。昆虫は同類の醜果を轉じ。衆人は定
J18_0391A06: 受の災殃をまぬがる。日夜木のもとを巡りて念佛し
J18_0391A07: 給ひしこと。これがため也とぞ後に承りし。寬政七
J18_0391A08: 年五月ばかりの事也。
J18_0391A09: 日の御崎は。日高郡に屬す。地かたより一里半ばか
J18_0391A10: りを隔て。海岸にそひてのぼる事廿町餘なり。熊野
J18_0391A11: の岬。土佐の足摺の岬。三分鼎足して。絶景いはん
J18_0391A12: 方なし。されど風濤險惡の處なれば。渡海人おそる
J18_0391A13: ることかぎりなし。寬政六年七月十二日の夜。海上お
J18_0391A14: びたたしく荒て。大小の船どもあまた破損せり。水
J18_0391A15: 主をはじめ水になれたるものも。多く溺死してけ
J18_0391A16: り。その後は雨夜などには。海上に陰火もえ。浪の
J18_0391A17: 上に人の啼聲せりとぞ。寬政八年秋のころ。其亡靈
J18_0391B18: のためにとて。三七日を期して。別時念佛を修せら
J18_0391B19: れしに。あるひあら浪俄に起りて。其中より鰐魚の
J18_0391B20: 頭現れ出たり。頭上に靑き苔の如き草生のび。眼い
J18_0391B21: とすさまじ。師は一心に念佛回向せられたるに。暫
J18_0391B22: ばかりにして。海底に沈みぬ。其のちは船艦覆沒の
J18_0391B23: 事絶て聞えずとぞ申傳へける。唐の韓昌藜が潮州の
J18_0391B24: 刺史たりし時。鱷魚の災を除きたるにも似通ていと
J18_0391B25: めづらかにも又尊し。
J18_0391B26: 須ケ谷の山居のころ。或曉。例の絶壁の上に坐をし
J18_0391B27: めて。念佛し居給ひけるほど。額上に雙角ある妖女。
J18_0391B28: いづくともなく顯れ出。兩の手をのべて。師のうし
J18_0391B29: ろより。兩の御臂を攫て空中に飛去事。凡五十間ば
J18_0391B30: かりにして。あはや千仞の谷底へ擲落さんず勢ひな
J18_0391B31: りしに。忽に全身金色の金剛力士。憤怒の威相を現
J18_0391B32: じて。遙向の半天に顯れ給ひぬ。妖女はこれにやお
J18_0391B33: それけん。忽見えず成し時。師ははじめて我にかへり
J18_0391B34: たるやうにて。絶壁の上に端坐し給ひしに。力士の

ウィンドウを閉じる