浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0389A01: | 聲の。耳のほとりに聞ゆれど。猶夢のやうなりき |
J18_0389A02: | と。後に本勇竊にかたりけり。かぶら坂。爪書地藏 |
J18_0389A03: | 尊の堂へ入らせ給ひ。ここにて小食をとて。もたら |
J18_0389A04: | しし蠶豆の粉を供じぬ。折しも堂の前を人の通るを |
J18_0389A05: | 見るに。日高郡の相しれる人なれば。母堂の御もと |
J18_0389A06: | へ。ことづて聞え給ふ。其日。有田郡。須ケ谷村を過 |
J18_0389A07: | 給ふに。農夫榮助といへるもの。師の御前に膝ま |
J18_0389A08: | づきて。今日は。おのれが母の忌日なり。かしこけ |
J18_0389A09: | れども。今宵は吾家にとぞ請じ申ける。抑この榮 |
J18_0389A10: | 助。いかなる宿縁をか結びけん。師に歸依渴仰する事 |
J18_0389A11: | 肉身の如來を視奉るごとく也。いかで師を此地にと |
J18_0389A12: | どめまゐらせて。おもふままに結縁をもせさせ給は |
J18_0389A13: | ん事をと兼ては思まうけたるをなど。歎奉りけれ |
J18_0389A14: | ば。そはよき志なりとて。所望にまかせらる。榮助 |
J18_0389A15: | よろこびいはんかたなく。天神山の半腹に俗にすべり岩といふと |
J18_0389A16: | ころささやかなる草庵一宇しつらひて。奉仕供養。心 |
J18_0389A17: | を盡しけり。 |
J18_0389B18: | 須ケ谷の山は。有田郡に屬して。高さ廿町ばかりも |
J18_0389B19: | 登るべし。半ばより上は。松柏も生出ず。巖石をた |
J18_0389B20: | たみあげたるやうにて。嶮〓いふばかりなし。昔。 |
J18_0389B21: | 畠山政氏といへりし人の。籠たる城山にて。土俗は |
J18_0389B22: | 魔所なりとて。つねにはおそれて登人もなかりし |
J18_0389B23: | を。師。見給ひて。前の庵もあれども。この絶境こ |
J18_0389B24: | そ。空閑獨處にはよき道場なれ。ここに庵ひとつ造 |
J18_0389B25: | れとなん命じ給ひける。かくて榮助からうじて。絶 |
J18_0389B26: | 頂の南に向ひたる巖の上に。方丈にもたらぬ平地 |
J18_0389B27: | 一所を見出ければ。うれしくて。やがてさし出たる |
J18_0389B28: | 巖にそひて。丸木の柱を建。枯殘たる薄ちがやも |
J18_0389B29: | て。ふき覆ひたり。はつかに御膝いるるほどなるべ |
J18_0389B30: | し。下は千仞の絶壁にて。これを臨ば眼も眩轉ばか |
J18_0389B31: | りなり。庵は雨露のまほにかからぬのみにて。内外 |
J18_0389B32: | の隔だになければ寒風虜を擘き。山雲牀を埋て。さ |
J18_0389B33: | ながら露地坐に異なることなし。むかし頭陀第一と |
J18_0389B34: | 佛の讃給ひし迦葉尊者のお跡にも。おさおさ劣給は |