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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0387A01: じ。我まづ拜し奉らんと申されければ。童子傍なる
J18_0387A02: 石上に登り。傲然として。師の拜を受。人人不思議
J18_0387A03: の事なりとぞ申合ける。
J18_0387A04: 熊野三山に詣られたる日は。新宮の祭禮也ければ。
J18_0387A05: 法樂の爲。しばしがほど。神事を拜見し給ける。其
J18_0387A06: 前を幣策たてる神馬通りかかりたるが。四足をたて
J18_0387A07: て。動ず。力を盡して曳ども。更に進ざるを見給ひ
J18_0387A08: て。師。威儀を正して。人に授るやうに。高聲に十
J18_0387A09: 念唱へ給ひしかば。神馬はやがてあゆみをすすめた
J18_0387A10: りきとぞ。
J18_0387A11: 熊野より歸給へる路すがら。田邊といへる所のある
J18_0387A12: 家に宿し玉ふ。翌日托鉢などして。下津河のほと
J18_0387A13: り。齋食の場所にて。念佛せらるるに。あまたの
J18_0387A14: 魚。水面に集り來ければ。米をいたしてまかせ給へ
J18_0387A15: るに。暫の間に。魚ども限もなくあつまりきて。川
J18_0387A16: の中くろみわたりてみゆ。師ねもころに法施し。十
J18_0387A17: 念を授玉ひて。鉢の中なる米を次第にほどこし。川
J18_0387B18: のほとりを行給ふに。その魚つき隨ふこと。およそ
J18_0387B19: 一里ばかりのほどなり。見る人奇異のおもひをなさ
J18_0387B20: ざるはなかりき。流水長者の十千の魚に。餌を施
J18_0387B21: し。佛號を授られしに。魚ことごとく天に生ぜし事
J18_0387B22: など。おもひ合するに。師の行跡のただならぬことを
J18_0387B23: しるにたれり。
J18_0387B24: 或夜。いと氣高き人の束帶して來り給へり。そのか
J18_0387B25: たはらに。一羽の鳥見ゆ。おほきさ六尺ばかりなる
J18_0387B26: べし。羽翼かがやきて。金光を放てり。人ありてい
J18_0387B27: ふ。これなん熊野權現の御使なると見て。夢覺ぬ。
J18_0387B28: 扨は過しころ。熊野へ詣たるが。冥慮にやかなひけ
J18_0387B29: んとてぞ歡れける。
J18_0387B30: 紀州加茂谷津田の瀧に。龍のすめりといふ事を。昔
J18_0387B31: よりいひ傳たり。師たびたび行て十念を授らる。い
J18_0387B32: つの頃か其形をあらはしける事の有けん。かの龍神
J18_0387B33: は鰻魚の如とぞ申れける。或時。名號を加持して瀧
J18_0387B34: つぼに投じ玉ひしに。水中にて渦まきて沈にけり。

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