浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0387A01: | じ。我まづ拜し奉らんと申されければ。童子傍なる |
J18_0387A02: | 石上に登り。傲然として。師の拜を受。人人不思議 |
J18_0387A03: | の事なりとぞ申合ける。 |
J18_0387A04: | 熊野三山に詣られたる日は。新宮の祭禮也ければ。 |
J18_0387A05: | 法樂の爲。しばしがほど。神事を拜見し給ける。其 |
J18_0387A06: | 前を幣策たてる神馬通りかかりたるが。四足をたて |
J18_0387A07: | て。動ず。力を盡して曳ども。更に進ざるを見給ひ |
J18_0387A08: | て。師。威儀を正して。人に授るやうに。高聲に十 |
J18_0387A09: | 念唱へ給ひしかば。神馬はやがてあゆみをすすめた |
J18_0387A10: | りきとぞ。 |
J18_0387A11: | 熊野より歸給へる路すがら。田邊といへる所のある |
J18_0387A12: | 家に宿し玉ふ。翌日托鉢などして。下津河のほと |
J18_0387A13: | り。齋食の場所にて。念佛せらるるに。あまたの |
J18_0387A14: | 魚。水面に集り來ければ。米をいたしてまかせ給へ |
J18_0387A15: | るに。暫の間に。魚ども限もなくあつまりきて。川 |
J18_0387A16: | の中くろみわたりてみゆ。師ねもころに法施し。十 |
J18_0387A17: | 念を授玉ひて。鉢の中なる米を次第にほどこし。川 |
J18_0387B18: | のほとりを行給ふに。その魚つき隨ふこと。およそ |
J18_0387B19: | 一里ばかりのほどなり。見る人奇異のおもひをなさ |
J18_0387B20: | ざるはなかりき。流水長者の十千の魚に。餌を施 |
J18_0387B21: | し。佛號を授られしに。魚ことごとく天に生ぜし事 |
J18_0387B22: | など。おもひ合するに。師の行跡のただならぬことを |
J18_0387B23: | しるにたれり。 |
J18_0387B24: | 或夜。いと氣高き人の束帶して來り給へり。そのか |
J18_0387B25: | たはらに。一羽の鳥見ゆ。おほきさ六尺ばかりなる |
J18_0387B26: | べし。羽翼かがやきて。金光を放てり。人ありてい |
J18_0387B27: | ふ。これなん熊野權現の御使なると見て。夢覺ぬ。 |
J18_0387B28: | 扨は過しころ。熊野へ詣たるが。冥慮にやかなひけ |
J18_0387B29: | んとてぞ歡れける。 |
J18_0387B30: | 紀州加茂谷津田の瀧に。龍のすめりといふ事を。昔 |
J18_0387B31: | よりいひ傳たり。師たびたび行て十念を授らる。い |
J18_0387B32: | つの頃か其形をあらはしける事の有けん。かの龍神 |
J18_0387B33: | は鰻魚の如とぞ申れける。或時。名號を加持して瀧 |
J18_0387B34: | つぼに投じ玉ひしに。水中にて渦まきて沈にけり。 |