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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0381A01: 千津川の草庵に移られし後には。裙の上に麻の七條
J18_0381A02: の袈裟一肩をまとひ。食もはづかに命をささふばか
J18_0381A03: りなり。朝には。丑の時より起出て。溪水に臨て。
J18_0381A04: 廣懺悔を誦ながら垢離せらる。無始の罪障懺悔し給
J18_0381A05: へるなりとぞ。禮拜の數。およそ五千七千。或は一
J18_0381A06: 萬に滿る事もありけり。かつ禮拜の式。多くは五體
J18_0381A07: 投地をぞもちひられける。
J18_0381A08: 師の苦行あまりに精勵をこらされたるゆえにや。音
J18_0381A09: 聲かれて言語をなす事能はず。廅のうちいたく損じて。
J18_0381A10: 強て聲を發れば。口いたみ齒うごき。眼耳鼻より手
J18_0381A11: 足の指先にいたるまで。惣身痛徹すること。言語に
J18_0381A12: のべがたし。をりしも嚴寒のころにて。毎曉の垢離
J18_0381A13: には。寒風肌を刺。滿身のひび皹あたかも松皮の如
J18_0381A14: し。禮拜し給ふごとに。鮮血ほどばしるまで也。さ
J18_0381A15: れど道念いささかも撓事なく。いよいよ勉勵せられ
J18_0381A16: きとぞ。曾て人にかたられけるは。佛道修行は。一旦
J18_0381A17: の艱難をしのぶが大事也。三ケ年の後にいたりては。
J18_0381B18: いかなる難行の塲にいたりても。一身痛惱するほど
J18_0381B19: の事はなきもの也。法藏比丘の假令身止諸苦毒中
J18_0381B20: 我行精進。忍終不悔と誓給へるを。ましてわれら
J18_0381B21: が修行これに比すれば。かぞふるにもたらずとて。
J18_0381B22: いよいよ勇進せられけり。
J18_0381B23: 草庵に移られしのち。二年ばかりは。除髮をもせら
J18_0381B24: れしかど。後には精勤にいとまなくして。絶て剃除
J18_0381B25: の事をとどめられたり。されば髮長くたれて肩を
J18_0381B26: 過。衣はつかに身をおほふばかりなれば。世の人と
J18_0381B27: も見えず。かの仙人といへるものこそかくあるらめ
J18_0381B28: など。人人申合けり。沙門の身は鬚髮をを剃除すべ
J18_0381B29: きよし。佛の誡なるを。師のかかはり給はざるは。
J18_0381B30: 昔。長爪梵士の修學にいとまなくして。手足の爪を
J18_0381B31: だにもきらざりきといへるに似たり。尋常の人の學
J18_0381B32: べき事にはあらじかし。よく經論に達するものは。
J18_0381B33: おのづからしるべきなり。
J18_0381B34: 或時無言にて別行せられける折ふし。暴瀉する事お

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