ウィンドウを閉じる

J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0380A01: かたちに顯しかど。道念ますます盛なり。其頃。人
J18_0380A02: に語られけるには。何事も一道を貫通せんとおもは
J18_0380A03: んものは。艱難苦行を經て。練磨を重ざれば。其妙
J18_0380A04: 處に到るものにあらず。何事も初はかたき事におも
J18_0380A05: へども漸くにして。おのづから平易の塲にいたるも
J18_0380A06: の也とぞ申されける。
J18_0380A07: 同年九月。大河浦の圓光大師へ。參籠の事あり。今
J18_0380A08: より塵境を屏絶して。跡を林丘に隱し。苦行功就
J18_0380A09: て。利益を四海に及ぼさんとぞ祈求せられける。後
J18_0380A10: 日。千津川。須ケ谷などの苦修練行は。ここに發心
J18_0380A11: せられたりとぞ。或夜の夢に。十一面觀世音菩薩。
J18_0380A12: 告ての玉はく。汝我所に來るべし。我處に來て修行
J18_0380A13: せば。利物多からんと。覺めてのち。里人にさる菩
J18_0380A14: 薩の靈跡やあると問給ふに。しるものなし。師みづ
J18_0380A15: から里人に案内をせさせて。そこともなく搜索らる。
J18_0380A16: 落合といふ處にいたりて。申されけるは。菩薩を見奉
J18_0380A17: りしは。まさしく此地なり。いざこの處にて。念佛
J18_0380B18: 修行せばやとの給ふにぞ。里人謀て。茅をかり。荊
J18_0380B19: をきり。膝をいるるばかりの草盧一宇をむすびてま
J18_0380B20: ゐらす。この地に白山權現の社あり。師ここに移ら
J18_0380B21: れて後は。殊に心をいたして。法樂をささげ。外護
J18_0380B22: をなん乞申されにける。後日或人。その社の本地佛
J18_0380B23: とて。取いだししを拜し給ふに。夢中に見奉りし。
J18_0380B24: 十一面の尊像に。露たがはずぞおはしましける。さ
J18_0380B25: ても我此處にとどまり修行せん事を。早くも菩薩の
J18_0380B26: しろしめして。指揮せさせ給ひしものをと。感泣せ
J18_0380B27: られたり。
J18_0380B28: 落合谷に移られしは。天明六年二月十七日なり。そ
J18_0380B29: の夜。農夫林助といへるものの妻。源兵衞といへる
J18_0380B30: ものの母。ひとしく夢みらく。紫雲の中に。あまた
J18_0380B31: の菩薩。光明赫灼として。手に抦香爐をとり給へる
J18_0380B32: が西方より來り。この草庵に入給ふと見る。覺て後
J18_0380B33: かたみに語りあふに。少しも違はざりければ。いよ
J18_0380B34: いよ師を佛の如くにぞ尊みあひける。

ウィンドウを閉じる