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J2710 関通和尚行業記 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0219A01: 四十八日の別時念佛日をさだめける時にてありしか
J18_0219A02: ば。しひて師の説法を請申ける。師も舊友のもとめ
J18_0219A03: いなみがたくして四十八日の間父子相迎を講せら
J18_0219A04: る。道俗未曾有のおもひをなし深く信敬して念佛に
J18_0219A05: 歸するものおほかりけり。説法既に終りけれは寺主
J18_0219A06: および歸依の男女。法衣世財など供養して化益の恩
J18_0219A07: を謝す。師それを固辭してうけられず。唯古笈一あ
J18_0219A08: りけるを見てこれを乞もとめらる。寺主いと怪しき
J18_0219A09: ことにおもひてそのよしを問はれければ。師答てい
J18_0219A10: はく。われ幼年より少く願を發せしことあり。師範
J18_0219A11: 照譽もまた懇切にしかしかのことを敎訓せられけれ
J18_0219A12: ば。いかにもして如實に自行を修熟し。しかありて
J18_0219A13: のち。隨分に力をつくし他を化導せんとこころかけ
J18_0219A14: 侍れと。兎角おもひわづらふのみにて。立脚いまだ
J18_0219A15: さだまらず行業の進こともなければ。此心を引立ん
J18_0219A16: ために時時僧傳を讀て古德の行狀をうかがふに。或
J18_0219A17: は明師を千里の外に求め。或は道心を諸國の佛神に
J18_0219B18: 祈りたまふことあれば。予もおよばずながらその賢
J18_0219B19: き跡を學んとおもひ先此國へ出侍る。かく踐履いま
J18_0219B20: だかたからざる身をもて人人の歸依を受んこと。自
J18_0219B21: 己の素志に背くのみにあらず師範の敎示にも違ひ
J18_0219B22: て。かたかた本意ならず覺はべるなど語られけれ
J18_0219B23: ば。寺主深く其志を感じ。涙にくれて杖と笈とをま
J18_0219B24: ゐらせける。師明旦その笈を負ひ飄然として出られ
J18_0219B25: ける。歸依の男女これを見るもの袂をうるほさぬは
J18_0219B26: なかりしとなん。それより孤影杖錫と伴ひ。物外に
J18_0219B27: 徜徉して諸州を行脚せらる。およそ行脚の間は。衣
J18_0219B28: はただ身をかくすのみにして三衣瓶鉢の外長物な
J18_0219B29: く。食はわづかに命を支ふるほどにて分衞餘りあれ
J18_0219B30: ば鳥獸に施與せらる。或は樹下に坐し。或は石上に
J18_0219B31: 息ひ。夜も人處に投して宿することは稀にて。華洛の
J18_0219B32: 邊を遊履せらるるには加茂の河原などにも臥申さ
J18_0219B33: れしとかや。さてぞ人烟遙に隔ちたる。野のすゑ山
J18_0219B34: の奧なとにては彼笈によりかかり靜に更ゆく空を

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