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J1370 一枚起請講説 法洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J09_0287A01: さて此起請誓言を。文の中間に置玉へること。至て
J09_0287A02: の妙釋なり。其故は。是より上は安心。是より下は
J09_0287A03: 起行なり。此誓言を中間におゐて。前の安心を結し。
J09_0287A04: 後の起行を生ずるの義趣。誠に妙釋なり。彼觀經の三
J09_0287A05: 心を。定散二善の中間に説きて。定善散善の二種に。
J09_0287A06: 通ぜしめたまふかごとし。此所にて。智者も愚者も共
J09_0287A07: に。安心は。疑なく往生するぞと思ひとるより外な
J09_0287A08: く。起行は。唯一向に念佛するより外なきことを。訖
J09_0287A09: 度決著すべきなり。實に此所を。能能味ひ見るべし。
J09_0287A10: 滅後末代に。邪義の橫濫を防ぎ玉へる。金剛の堤塘
J09_0287A11: は。此一段に極るなり。いかなる愚人なりとも。此起
J09_0287A12: 請誓言に。及び玉へるを見て。更に大師の御心を疑
J09_0287A13: はんや。又いかなる滅後の邪人なりとも。此起請文
J09_0287A14: に向ひて。正義を掠め奪ふことを得んや。されば。
J09_0287A15: 鎭西の正流を汲む輩の。六百年來。他人の邪推に混
J09_0287A16: ぜられず。背徒の邪義にまどはされざるは。全く此
J09_0287A17: 御遺誓の庇蔭なり。總して起請誓言の。善惡共に。
J09_0287B18: 決定して事を成することは。上の題號の下にても辨
J09_0287B19: じたれども。今は正しく。此一枚起請文と得名する。
J09_0287B20: 體となる下なれば。誓言の空しからぬ。事實を談じ
J09_0287B21: て。今を况示せん。過ぬる正保三年。江州信樂村と。
J09_0287B22: 山城の湯舟村と。山境の諍論あり。其時五味金右衛
J09_0287B23: 門殿より。檢使を立て。境目を改めらるるに。信樂
J09_0287B24: 村の領分と見分たり。然るに。前前より。湯舟村領
J09_0287B25: 地の證據多端なりける。此時信樂村の者共。申すや
J09_0287B26: うは。兎角起請文にて申し譯いたさんとて。村中殘
J09_0287B27: らず起請を書て。山を取り侍りける。其起請の中に。
J09_0287B28: 白癩黑癩とならんと。誓言を書入けるが。夫れより
J09_0287B29: 三年を經る。慶安二年の春の頃より。其村五六十軒。
J09_0287B30: 殘らず癩になりにけり。其中に老分三人ありて。連
J09_0287B31: 判に加はらざりけるが。是のみ恙なかりけりと。寔
J09_0287B32: に起請の天罰いちじるしく顯はれたり。已上。洞空和上の門人、蓮盛法
J09_0287B33: 師の記錄に出。是はこれ。唯假初に當座の非を飾らん爲にし
J09_0287B34: て。眞實の心よりはたてねども。終に誓ひし詞の如。

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