浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J09_0262A01: | たく降り積りて。遍身を埋み。寒氣髓に徹り。總身 |
J09_0262A02: | 堅冰の如くになり。已に絶命に及びなんとす。時に |
J09_0262A03: | 上人慚愧して。我業障の高きこと。此高山にすぎ。生 |
J09_0262A04: | 死の流れ深きこと。此雪の深きにこゆ。是に依て心眼 |
J09_0262A05: | を開くことを得ず。ああいかんがせん。よしよし此世 |
J09_0262A06: | に見佛成ぜずとも。我佛に攝取の本願あり。名號を |
J09_0262A07: | 稱して命終せは。必無漏の寶國に生れ。速に滿月の |
J09_0262A08: | 尊體を覩奉らんこと。更に疑ひあることなしと。夫より |
J09_0262A09: | 一向臨末の念に住して。念佛し玉ふに。不思議や大 |
J09_0262A10: | 雨俄に降り下りて。體を埋みし深雪も消へ。猶其雨 |
J09_0262A11: | の一滴。口中に入るに。味ひ甘露の如なりしが。今 |
J09_0262A12: | 迄出ざりし聲も。和雅の音聲を。思ひのままに發し。 |
J09_0262A13: | 堅冰の如く凍へすくみし五體。自在輕安なること鵞毛 |
J09_0262A14: | の如くなりければ。こは奇異のことかなとますます高 |
J09_0262A15: | 聲し給ふに。師の後の方より。呼ふ聲の聞へしかば。 |
J09_0262A16: | ふりかへり見給ふに。遙なる空中に。嚴飾微玅の五 |
J09_0262A17: | 重の寶橋橫たはり。白雲是をささへたり。其橋の大 |
J09_0262B18: | きさは。京都五條の橋ほどなる。其橋づめに。齡十 |
J09_0262B19: | 四五歳計に見ゆる天童たちて。手に拂子やうの物を |
J09_0262B20: | 持て。師を招く。師かしこに行ばやと。一念きざす |
J09_0262B21: | に。飄然とかの寶橋の中間に至り。安坐し玉ふ。然 |
J09_0262B22: | るに此寶橋。師を乘つつ空を凌き東をさして飛ひ去 |
J09_0262B23: | ること。凡十里計りにも及ぶと思ふときに。空中にと |
J09_0262B24: | どまる。師こはいかなる故ならんと。左右を顧み玉 |
J09_0262B25: | ふに。富士山の絶頂に。彼山一倍ほどに大身なる如 |
J09_0262B26: | 來。寶蓮の上に坐し。光明赫奕として。師の頂を照 |
J09_0262B27: | し給ふ時に。師身の毛いよだち。悲喜交流の涙にむ |
J09_0262B28: | せび。五體を投して禮敬し玉ひ。且つ佛恩を謝し奉 |
J09_0262B29: | らんとし玉ふに。悲咽して言ふことを得給はず。其時 |
J09_0262B30: | 如來御容を動かし。莞爾と欣笑し。微玅の法を演説 |
J09_0262B31: | し給ふ。御説法の旨趣は。師祕して語り玉はざれは。しる人なし。斯く優曇華の佛に値 |
J09_0262B32: | 遇し奉り。且甘露の法を拜聽し玉ひければ。廓然と |
J09_0262B33: | 心ひらけ。歡喜拜首し玉ふに。不覺に地にをち立給 |
J09_0262B34: | ふ。其所は塔の峯の麓なり。折しも農夫そこに居合 |