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安養集

提供: 新纂浄土宗大辞典

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あんようしゅう/安養集

一〇巻。宇治大納言源隆国編。延久二年(一〇七〇)四月一〇日直後から編纂事業開始、同三年二月、遅くとも同年一〇月には完了か。平等院南泉坊において源隆国が極楽往生を願う比叡山僧侶数名と共に、浄土教の論題九五項目について、当時流布伝承されていた唐・新羅以降の浄土教の経論章疏の文を証文として輯録配置したもの。浄土教の教理科目に対応して、各条文を網羅している。構成は、厭離・欣浄・修因・感果・依報・正報料簡の七大門からなり、その中に九五項目にわたる論題が掲載されている。さらに、その論題下には、それぞれの問題に関する要文を、四六部の経論章疏より、延べ七七五文にわたって引用を行う資料集の体裁をとる文献である。また、教理に関する編者の私見は一切見られず、引用文も極めて原文に忠実であり、取意文も全く見ることはできない。さらに、引用文を省略する場合も、必ず「乃至」を挟むなど、その旨が記載されていることからも、参考資料としての性格の強さがうかがえる。本書は年代的に比叡山での浄土教を大成させた源信法然の中間に位置し、源信以降の浄土教の進展をうかがわせる貴重な資料である。また『安養集』が掲げる論題は、大半が『往生要集』に依ってたてられたものであるにもかかわらず、論題下に集積された要文には、『往生要集』からの引用は一ヶ所もなく、本書は『往生要集』が引用できなかった要文を意図的に集積し編纂することで、『往生要集』の不足を補ったものであると考えられる。さらには、『往生要集』執筆時、比叡山ではあまり流布しておらず、『往生要集』において全くと言っていいほど引用されることがなかった曇鸞往生論註』『讃阿弥陀仏偈』『略論安楽浄土義』、善導観経疏』等の典籍を数多く引用している点は注目に値する。結果として、これらの書が後の法然へ多大なる影響を及ぼしたことは言うまでもない。この他、『安養集』に用いられた典籍の中には、その原本が現存しない、新羅浄土教典籍の法位無量寿経義疏』、義寂無量寿経述義記』や、善導の周辺に位置する、道誾どうぎん観経疏』、龍興観経記』、またわが国最古の浄土教典籍とされる元興寺智光無量寿経論釈』など、『安養集』の引文によってその内容を知ることができるものも多く、資料的価値の非常に高い文献であり、『安養抄』『浄土厳飾抄』などは、本書の影響下において成立している。現存する写本は、坂本西教寺蔵明暦二年(一六五六)本のみである。


【所収・参考】西村冏紹監修・梯信暁著『宇治大納言源隆国編安養集本文と研究』(百華苑、一九九三)


【執筆者:和田典善】