具三心義
提供: 新纂浄土宗大辞典
ぐさんじんぎ/具三心義
二巻。隆寛撰。建保四年(一二一六)二月の作。『観経疏』散善義の三心釈について詳細に釈した書。『滅罪劫数義』『弥陀本願義』といった著作の段階では見られない、阿弥陀仏に帰依する信を重視する教説が示されている。上巻には①総明三心義、②別明三心、として至誠心について説かれる。下巻は続いて深心と回向発願心について説かれ③総結三心義が説かれる。隆寛は諸行から廻心転向し、三心を基調とした阿弥陀仏の本願に帰依する他力を重視した。真実心は凡夫になく阿弥陀仏にのみ存するものとしており、阿弥陀仏の真実に帰する心こそが凡夫の真実心であるとする。本書はそのような隆寛の他力説の根幹をなす三心釈が善導の釈義にそって詳細に説かれ、『散善義問答』また『極楽浄土宗義』とともに隆寛の安心論を探るに不可欠な書物である。昭和八年(一九三三)金沢文庫では、本書をはじめ多くの隆寛関係の書物が発見されたが、完全な形で残っていたのは本書のみである。現存する書は湛睿手沢本。
【所収】『隆寛律師の浄土教 附遺文集』、『隆寛律師全集』、日蔵九〇
【参考】塚本善隆「金沢文庫所蔵の長楽寺隆寛派の新資料」(『顕真学報』三—四、一九三四)、平井正戒『隆寛律師の浄土教 附遺文集』(金沢文庫浄土宗典研究会、一九四一)
【参照項目】➡隆寛、三心、弥陀本願義、滅罪劫数義、極楽浄土宗義、散善義問答
【執筆者:伊藤茂樹】