弥陀本願義
提供: 新纂浄土宗大辞典
みだほんがんぎ/弥陀本願義
四巻。隆寛撰。『無量寿経』四十八願を講述した書。隆寛六一歳の著作である。同書の奥書によれば、承元三年(一二〇九)藤原隆衡が千日称名行を行ったとき、隆寛は隆衡に呼ばれ本書を講義したという。本書はその前年の春に尊念の『本願義』をもとにして隆寛が撰述したようである。奥書中に出る伽陀婆羅摩は隆寛の別号。一巻は第一願より十六願まで。二巻は十七願より三十二願まで。三巻は三十三願より四十八願まで。四巻が料簡門である。金沢文庫に写本が二部現存しており、一部は湛睿手沢本、一部は書写者不明の鎌倉期の写本で称名寺本と呼ばれる。湛睿本は同庫所蔵の『具三心義』『極楽浄土宗義』と同筆である。両書とも欠落している部分が多いが補いあえば大半がわかる。平井正戒の『隆寛律師の浄土教 附遺文集』(国書刊行会、一九四一)における翻刻は、称名寺本を底本として欠けているところを湛睿本で補っている。なお称名寺本は慈円本の転写本。後の隆寛教学にみられる三願転入や独自の他力説もみえず、初期の撰述にあたる。
【所収】『隆寛律師の浄土教 附遺文集』、日蔵九〇、『金沢文庫資料全書』四
【参考】塚本善隆「金沢文庫所蔵浄土宗学上の未伝稀覯の鎌倉古鈔本」(浄土学五・六、一九三三)、色井秀譲「隆寛律師の『弥陀本願義』」(『天台学報』一九、一九七七)、村松清道「『弥陀本願義』の奥書について」(『三康文化研究所年報』二八、一九九六)
【執筆者:伊藤茂樹】