明義進行集
提供: 新纂浄土宗大辞典
みょうぎしんぎょうしゅう/明義進行集
三巻。信瑞撰。法然伝の一種。長く流伝を絶っていたが、大正七年(一九一八)、大阪府河内長野市金剛寺(真言宗)から巻二、三の写本が発見された(弘安六年〔一二八三〕、恵鑁写)。法然の教えに帰依した諸宗の学僧、静遍・明遍・隆寛・空阿・信空・覚愉・聖覚・明禅八名の僧伝を没年順に記し、末尾には著者の思想的立場を示す長い問答体がある。失われた巻一は法然の伝記であったと考えられる。八名のうち最後の明禅は仁治三年(一二四二)没、また文永一二年(一二七五)の『和語灯録』に本書が引用されるので、この間に成立したと考えられている。内容は伝記というより言葉や思想を伝えることに重きが置かれ、とくに法然の念仏観を無観称名義と理解するのが大きな特徴である。これは観法をせず、ただ念仏を称えるという意味で、法然の念仏観の大要をよく言い当てている。そして法然の化導によって諸宗の学僧が執心を改め無観称名で往生を遂げたことを主張する。多く引用される言葉や著書には現存しないものもあり貴重。後に成立する『四十八巻伝』や『九巻伝』に影響を与え、法然伝のなかで重要な位置を占める。
【参考】望月信亨「信瑞の明義進行集と無観称名義」(『浄土教之研究』金尾文淵堂、一九二二、再刊一九七七)、橋川正「明義進行集とその著者」(『日本仏教文化史の研究』中外出版、一九二四)、仏教古典叢書『明義進行集』(中外出版、一九二四、再刊一九八四)、大谷大学文学史研究会編『明義進行集 影印・翻刻』(法蔵館、二〇〇一)
【執筆者:善裕昭】