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水子供養

提供: 新纂浄土宗大辞典

みずこくよう/水子供養

水子とは、自然流産、死産、人工妊娠中絶によって死亡した胎児および一歳未満で死亡した早逝児をさす。一般的には、水子供養とはそうした胎児・出生児の供養を意味する。伝統社会においては、子供は体力もなく、医療も発達していなかったために、命を落としやすく、一般に「七歳以下は、神の子」といわれていた。また胎児の人工妊娠中絶や誕生直後に生命を絶つ間引き・子おろしも飢饉等の生活困窮時に不可避の行為としてまれに行われていた。そのため、大人と葬法も埋葬法も異なることが多かった。法名は○〇水子と授与し、葬儀は簡略にしたり、行わないことが多かった。棺の中に魚を入れ成仏しないよう願ったり、共同墓地の入り口近くに子墓こばかと呼ばれる子供だけ埋葬する場所を設けるなどの習俗があったが、これらには、子が死後すぐに生まれ変わってくるようにとの願いが込められていた。おおむね一九七〇年代以降、伝統仏教ばかりか新宗教まで含むさまざまな宗教によって、主として人工妊娠中絶によって命を絶たれた水子の霊は親に祟るからと、水子地蔵や観音像等を建立しその霊を供養することによって祟りを鎮め、心のやすらぎやさまざまな利益を得ようとする新たな宗教現象が起きた。昭和五〇年(一九七五)以降には水子供養のためだけに特別な区画が境内にしつらえだされ、それ以降こうした供養施設は増加し続け、また水子供養で有名な寺院も各地に出現している。供養の目的は、人工妊娠中絶を行った女性や家族に身体の不調やさまざまな不幸が降りかかるのは水子霊の祟りであり、供養を行い懺悔することによって祟りは取り除かれ、それらの不幸が解消し心の安らぎを得ることができる、と説明されることが多い。水子供養は伝統仏教だけではなく、新宗教においても重要な位置をしめている。先祖供養の意義を強調し、万霊供養の一環として水子供養を位置付けているのは立正佼成会など霊友会系諸教団である。「生長の家」では優生保護法への批判から、戦後早くから水子霊への取り組みが行われた。また大阪府茨木市に本部を置く辯天宗では、地区単位で婦人部を中心に教勢拡大のために水子供養勧募が行われて、墓には地蔵の建立をすすめている。現代では医学の進歩により、赤子は無事な誕生が高確率で約束され、死は異常と考えられている。そもそも伝統社会での中絶は困窮や飢饉といった社会的理由で行われるために、中絶は社会の責任として個人の負い目は薄められた。そのことは「神の子」という表現にも現れている。それに対して現代の人工妊娠中絶は、親の個人的な理由によって行われることが多く、それゆえ現代の水子供養は、さまざまな事情によって生命を絶たれた胎児に対する負い目から創出された、贖罪しょくざいと心の解放を目的とした新しい宗教儀礼といえる。


【参考】星野英紀・武田道生「負の精神性とやすらぎ—現代水子供養の底流—」(『真理と創造』二四、佼成出版社、一九八五)、鷲見定信「民俗信仰の再生と供養儀礼」(『大正大学宗教学年報』二四、大正大学宗教学会、一九九四)


【参照項目】➡位号


【執筆者:武田道生】