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悉曇

提供: 新纂浄土宗大辞典

しったん/悉曇

日本に伝来した、古代インドのグプタ文字の一種で六世紀頃成立したシッダマートリカー(Ⓢsiddhamātṛkā)文字のこと。Ⓢsiddhamの音写で、悉談、悉檀とも書く。『般若心経』『仏頂尊勝陀羅尼』が記されている法隆寺貝葉ばいようの文字がその範例とされる。悉曇の字母数は母音に相当する摩多またの一二字と別摩多の四字、さらに子音に相当する体文たいもん三五字からの計五一文字から構成される。Ⓢsiddhamには「完成したもの」「成就したもの」との意があり、その文字だけで単独に発音することのできる摩多のみを悉曇と称する解釈と、体文もその文字自体に本来母音のアが具わっているとして、すべての字母を悉曇と称するとの解釈が指摘される。これらは悉曇の語義を字母と発音の上で論じているが、密教においては、字母それぞれが仏・菩薩をはじめとする諸尊を象徴するなど、悉曇密教において欠かせない要素と言える。なお日本の悉曇研究が江戸時代に大成するなか、悉曇文字による梵本『阿弥陀経』が開版されている。また仏教以外でも、曲線を用いた優雅なグプタ文字の流れを汲む字形が意匠など現代においても各方面から注目されている。


【参考】田久保周誉『梵字悉曇』(平河出版社、一九八一)、色井秀譲『阿弥陀経を語る』(山喜房仏書林、一九九一)、大法輪閣編集部『真言・梵字の基礎知識』(大法輪閣、一九九三)


【執筆者:袖山榮輝】