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四恩

提供: 新纂浄土宗大辞典

しおん/四恩

四種の恩恵。Ⓢcatvāri saṃgraha-vastūniで、四摂法、四摂事とも訳される。『正法念処経』(五三九年訳出)では母・父・如来説法法師に対する恩が説かれ、四種の福田ふくでん思想を背景として四恩思想が成立している。九世紀初めの般若三蔵訳『諸仏境界摂真実経』下では国王・父母・施主衆生四恩が説かれ、『大乗本生心地観経』二では、父母・衆生・国王・三宝の恩が説かれ、父母の恩は共通するが、如来の恩と説法師の恩が三宝の恩にまとめられ、新たに衆生の恩と国王の恩が加えられている。日本では四恩思想は早くから伝えられた。法隆寺金堂釈迦像の銘文や、東大寺法華堂の不空羂索観音像の縁起には四恩の語があり、『日本霊異記』上、三五では四恩のために絵の仏像を作ったとある。空海の著作中には四恩の語が多く見出され、それらは『心地観経』に基づくものと、それ以外のものとの二系統があるとされる。さらに明治期には『心地観経』と『党網経』の四恩説に基づき、『明治孝節録』『幼学綱要』『教育勅語』に示された儒教的な教育倫理に対する仏教者側の反動として、護法・報恩思想の復古運動が行われた。


【参考】勝又俊教「四恩思想の諸形態」(『豊山教学大会紀要』一、一九七三)、岡部和雄「四恩説の成立」(『恩』仏教思想四、平楽寺書店、一九七九)、松長有慶「四恩説の再検討」(『密教文化』一八九、一九九五)、岩崎日出男「中国古代から唐代に見える恩について—般若三蔵と空海の四恩思想の序説として—」(『小野塚幾澄博士古稀記念論文集 空海の思想と文化』下、ノンブル社、二〇〇四)


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【執筆者:北條竜士】