浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0520A01: | に委くせす。此の時に當つて芝山に妙譽定月大僧正 |
J18_0520A02: | あり。亦た絶代の名匠なり。夙に師か才學を欽し。千 |
J18_0520A03: | 里を遠しとせす。屢は師を江戸に召し待つに賓客の |
J18_0520A04: | 禮を以てす。師猿鶴の哂を怕ると雖も時に亦た龍象 |
J18_0520A05: | に參つて虎溪を出つ。僧正の選獅子絃の如き文勢を |
J18_0520A06: | 以て之を推すに師か潤飾に預る多きを疑はす。唱和 |
J18_0520A07: | の詩歌悃欵の情を想ふべし『秋霜昨夜滿江城 西 |
J18_0520A08: | 望函山雪色淸 雲路飄然飛錫去 孤猿啼送故人 |
J18_0520A09: | 情』送孤立道人西歸『草かれてさひしき旅の衣手に露の惠の |
J18_0520A10: | かかれとそ思ふ』上妙譽大僧正師の江都に往くや姥池愛蓮 |
J18_0520A11: | 庵に寓し武藏野の草端房と稱す。蓋し淸女の木のは |
J18_0520A12: | しのやうに思はるるよの語に取る歟。安永二年愛蓮 |
J18_0520A13: | 菴に在り。遊芝談を造して普寂律師を指彈し盛んに |
J18_0520A14: | 論鼓を鳴す。爾時高齡六十六。以て其老て益す壯な |
J18_0520A15: | るの意氣を見るへし。是より先き性惡論を述して律 |
J18_0520A16: | 師を貶挫し扶宗編を選して關通和尚を痛斥す。其立 |
J18_0520A17: | 義を評破するや微を穿ち細に入り鑿鑿肯綮を衝く。 |
J18_0520B18: | 二師亦た命世の偉器。意ふに必す其説あらん。但大 |
J18_0520B19: | 人の相爭ふ往往内鑑冷然たるものあり漫に後世白面 |
J18_0520B20: | 小子の私議を容ささるなり。然と雖も是に由て亦以 |
J18_0520B21: | て師か稜稜の氣韻死に至るまて且つ銷磨せさるを覯 |
J18_0520B22: | つへきなり。師曾て夢菴に壁書す『夢の世に夢のい |
J18_0520B23: | ほりを結ふ夢さめなは夢と見しも夢かも』今や果然 |
J18_0520B24: | 師が夢覺の時は到來せり矣。然とも師は那れの處に |
J18_0520B25: | 在て而も其臥榻を踏破し了せしか。其窀穸の地も亦 |
J18_0520B26: | た杳として尋ぬへからす。正法寺の靈名簿は。天明二 |
J18_0520B27: | 年八月十五日圓寂す世壽七十四歳と注する而已。或 |
J18_0520B28: | は傳ふ顧命に由り鱗族結縁の爲に綾瀨の下流に水葬 |
J18_0520B29: | すと。果して然るか然らさるか是れ必すしも問ふを |
J18_0520B30: | 要せさるなり。夫れ五蘊假合して生を蜉蝣に禀く産 |
J18_0520B31: | れて父母なく死して墓田なし。是れ師か孤立生涯の |
J18_0520B32: | 終始を一貫するもの。天來の面目本地の風光活潑潑 |
J18_0520B33: | 地にして千載生氣ある所以なり。嗚呼師も亦た曠世 |
J18_0520B34: | の奇傑なる哉。 |