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J2760 略伝集 本会 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0510A01: の全を得さるも其か性情の流露に於て豈に能く廋さ
J18_0510A02: んやと。則ち山房に閑坐して夙夜に之を思ふ。一旦
J18_0510A03: 髣髴として理解するあるに似たり。而して余の師に
J18_0510A04: 見る所は頗る世の議者と之れ異り矣。夫れ馬を相る
J18_0510A05: 其骨を相る皮にあらさるなり木を視る其質を視る蔭
J18_0510A06: にあらさるなり。抑も吾大我上人を看る其終世身を
J18_0510A07: 逆境に處して而も能く其大を成したるを看んことを
J18_0510A08: 要す。怪む勿れ孤立絶外。是れ豈に師か一生の境遇
J18_0510A09: を注釋せる恰當の文字にあらすや。孤韻風の如く邁
J18_0510A10: き逸氣煙の如く翔る。孤立絶外實に是れ師か嘗て自
J18_0510A11: ら名つくるところなり。嗚呼師はぞれ生れなからに
J18_0510A12: して而も孤立『予小子託質於赤城武臣之家。賦命
J18_0510A13: 數奇而母末妻也。爲遭正室嫉愬未遂分誕之時
J18_0510A14: 而出。懷孕咽懟行干城北之閭里。分離未久而母
J18_0510A15: 去世矣』是れ師か三十五歳の夏自著問津訣に於て述
J18_0510A16: 懷する所にあらすや。人世不幸幼にして父母亡きに
J18_0510A17: 過たるはなし。而して師は孕に在て蚤く父の家を逐
J18_0510B18: はれ。生れて乍ち母を喪へり。〓〓たる孤影誰ありて
J18_0510B19: か伴はん。呱呱たる孑遺覆載の間復た怙恃すへきもの
J18_0510B20: なし。于嗟師は終に父母の顏を知るに及はさりしな
J18_0510B21: り。其謂ふ所赤城武臣の家とは赤穗侯森氏の江戸邸と
J18_0510B22: 爲す。然則ち師は實に江戸の出生にして。世に奧州
J18_0510B23: (又九州)の人と爲し女兄多力の事を喧傳するの架空
J18_0510B24: たることを曉るへきなり。而して其甲子の如きは師か
J18_0510B25: 著書の年序を標凖として溯れは明に寶永六年己丑に
J18_0510B26: 當るを知る。然とも胎中生家を放たるるを以て其系
J18_0510B27: 譜及ひ姓氏に至ては漠焉として記すへきなし。父母
J18_0510B28: なく家なく姓氏なく系譜なし孤立の孤立たる所以此
J18_0510B29: に於てか在り焉。偉人の一ひ世に降生する必す天に
J18_0510B30: 負ふ所のものあり。假令轗軻邅迍すと雖も天も亦浪
J18_0510B31: りに之を殺ささるなり。師孩提にして其怙恃を失す
J18_0510B32: と雖も乳母蓮心なる者あり師を武城伊香里に收養し
J18_0510B33: 能く鞠育の道を盡す。乳母亦た誰家の子たるを知ら
J18_0510B34: す。然とも敦厚貞淑而も佛道に篤信なりしは師か吉

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