浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0062A01: | ○師又爰を去り攝州唐櫃に行小庵を結び松風を友と |
J18_0062A02: | す。元來此地の男女その性暴悍にして恒に猛獸を狩 |
J18_0062A03: | し無慚放逸なり。未だ曾て後世をしらず。師時時是 |
J18_0062A04: | を敎化す始は敢て信ぜず後に漸く因果の道理を聞て |
J18_0062A05: | 當來を恐れ念佛する者多し。一日師偶遠方にゆき山 |
J18_0062A06: | 路を經て庵に歸る。途にして露身の僧に逢ふ。時晩 |
J18_0062A07: | 冬なり。其由を問ふに答へて云く今朝此山中にして |
J18_0062A08: | 盜賊の爲に衣服を剥れたり我は是旅僧なり本國に歸 |
J18_0062A09: | らんと欲す風雪膚を侵し寒苦骨に徹り飢又堪がたし |
J18_0062A10: | 請ふ慈愍を垂よと。師則ち侍者に命して路資の用金 |
J18_0062A11: | を施さしむ。師自から着たる所の衣服の半を脱て與 |
J18_0062A12: | へて云く。我と汝と共に寒苦を分たんのみと。僧禮 |
J18_0062A13: | 謝して去る。師の慈忍斯の如し。其後唐櫃を退いて |
J18_0062A14: | 又洛の梅が畑に歸る唐櫃の庵今現在して幽松庵と號 |
J18_0062A15: | す |
J18_0062A16: | ○天和元年の冬より同二年の春に至る迄飢饉災あ |
J18_0062A17: | り。洛中洛外近里遠村餓死する者數をしらず途に橫 |
J18_0062B18: | り街に滿り。師梅が畑に在て是を聞是を見て默止す |
J18_0062B19: | るに忍びず。則ち山を出て專福寺にいたり別時念佛 |
J18_0062B20: | を修して餓死の亡靈を弔ひ又自身の衣服を脱ぎ日用 |
J18_0062B21: | の調度をも米錢に代て日日餓者に施行す。餓者歡喜 |
J18_0062B22: | して來ること市の如し。施財既に盡たり。師則ち手 |
J18_0062B23: | づから一鉢を持して市中に入り行乞して餓者を救 |
J18_0062B24: | ふ。諸人是を感じて大いに金銀米錢を送る。師則ち |
J18_0062B25: | 意に任せて大施行をなす。日日に六七千或は八九千 |
J18_0062B26: | 人皆此施を受て壽命を全ふす。貴賤讃歎して云く大 |
J18_0062B27: | なる哉法施財施。普く現當二世を救濟す實に大悲薩 |
J18_0062B28: | 埵なりと |
J18_0062B29: | ○貞享年中洛の專念寺火災に罹りて一宇も殘らず灰 |
J18_0062B30: | 燼して焦土と成りぬ。寺主いかんともすべき方なき |
J18_0062B31: | 故に夜に紛れて出奔し去る。檀家の輩列參して師に |
J18_0062B32: | 告て云く。尊師の師跡是の如し。檀家も又燒失する |
J18_0062B33: | 故に再興を謀るに力なし。伏して願はくは尊師大悲 |
J18_0062B34: | を垂。枉て人情に隨ひ寺主と成りて再建し給へと。 |