浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J09_0108A01: | るに・巢に卵子あり・其母愛惜し・襁褓を以て子に |
J09_0108A02: | 覆ふ・翮を開けども飛び去らす・此の人悲心を發し |
J09_0108A03: | て・弓を切り矢を投け髻を刎つて出家す・蔬食布衣 |
J09_0108A04: | 頭陀苦行し禮拜懺悔を業とす・穢惡を厭離し・淨刹 |
J09_0108A05: | を欣求し・晝夜勤行し・佛名を唱ふ・行年六十一・ |
J09_0108A06: | 壽終るの期を知り・合掌して西方に向ひ・佛を禮し |
J09_0108A07: | て往生す・日比放逸なりし人も・心を翻して眞に歸 |
J09_0108A08: | し念佛すれば・往生せずと云事なし・一生造惡の人 |
J09_0108A09: | も・臨終の夕べ初て念佛するに往生をとぐ・又此の |
J09_0108A10: | 如きの説を聞き・終焉の時をのみ賴んで常に念佛を |
J09_0108A11: | 申さぬ人あり・是を大なる失とす・此の事を群疑論 |
J09_0108A12: | に具に述せり・見るべし・ |
J09_0108A13: | 近世惡人改悔念佛して往生をとげたる多し・且く一 |
J09_0108A14: | を擧ぐ・山城國宇治田原と云所に淨閑と云翁あり・ |
J09_0108A15: | 若かかりし時は石田三成に仕ふ・慶長の軍の時・主 |
J09_0108A16: | 人に隨うて・美濃國大垣の城に楯籠る・落城の後身 |
J09_0108A17: | の置所のなきままに・城州玉水近き邊の山に隱れ・ |
J09_0108B18: | 晝は岩の間を宿とし夜は大和路に出でて辻切と云事 |
J09_0108B19: | をし・命を紲ぐよすがとす・ある年の春朧月夜に女 |
J09_0108B20: | ただ獨り一町ばかり隔りたる鄰里へ行くを淨閑松の |
J09_0108B21: | 木陰より見付け走り出で彼の女を殺害し其の懷に在 |
J09_0108B22: | りしものを取つて見れば苧の枷と云ふものなり・ |
J09_0108B23: | 淨閑つらつら思ひけるは・我か身命の捨て難さにか |
J09_0108B24: | かる淺ましき業をなし・無益の事に人の命を奪ひつ |
J09_0108B25: | る事の悔しさよ・此の女のさぞや命の惜しかりけん |
J09_0108B26: | と・哀れに堪えがたくて忽に心を飜し夜の明くるを |
J09_0108B27: | 待ちて・古郷宇治田原に來り・彼の里の名主が許へ往 |
J09_0108B28: | き我れ昨夜かかる事に依りて心を改め侍る今まで古 |
J09_0108B29: | 郷へ歸らざるはもし落人などどて搜し出だされ命を |
J09_0108B30: | 失はるる事もやあらんと思ひし故に・山野に身を隱 |
J09_0108B31: | して月日を送りける也・今は身を思ふ心なくなりぬ・ |
J09_0108B32: | 苦しからず思ひ給はば此の里に住ませて給はりなん |
J09_0108B33: | やと云・名主聞いて名ある武士にても在さねば尋ね |
J09_0108B34: | あるほどの事はあらじ・心に任せ給ふべしといふ・ |