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Z0400 空花和歌集 湛澄 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
Z08_0364A01:
Z08_0364A02: おほつかなたれかいひけん小松とは
Z08_0364A03: 雲をさ〻ふる高松のえた
Z08_0364A04: これも夫木集卅四に載せたり。やさしき歌なり。○
Z08_0364A05: おほつかなきとは。萬葉集には。おほく鬱悒の字也。
Z08_0364A06: うたかふ調也。○さふるとは。支の字。撑の字也。雲
Z08_0364A07: を支ふるとは。高き事をいふ。古人松の論に。枝摩
Z08_0364A08: 靑天といへるがごとし。かく白雲をさ〻ふるばか
Z08_0364A09: り。木だかき松なるに。誰の人か小松とは名付け〻
Z08_0364A10: るぞおぼつかなしと也。前の歌は松をおとしめて。
Z08_0364A11: 往生の安心をす〻め。此歌は名所の小松を賞翫し
Z08_0364A12: て詠じけり。さらでもさびしき山陰なるに。長松の
Z08_0364A13: 梢に。白雲さへか〻りて。いひしらず面白き景氣を
Z08_0364A14: 思ひ入て見侍らば。艶におかしき歌なるべし。事し
Z08_0364A15: げき世をのがれて。しづかなる小松谷にかくれ。嶺
Z08_0364A16: にかたぶく月を見ては。浮世の無常を觀じ。松にさ
Z08_0364A17: びしき嵐を聞ては。念佛三昧の友とし給ひけん。閑
Z08_0364A18: 居の氣味もおもひやられて。心なき身にだにこそ。
Z08_0364A19: す▲ろにたうとく侍れ。かの明覺尊者の左溪に居
Z08_0364A20: して。雲松は身世を忘るべしとのたまひ。唐の潘師
Z08_0364B01: 正か。茂松淸泉。臣が願ふ所といひしも。みな塵世を
Z08_0364B02: いとひて。閑居をたのしめる幽玄の心なるべし。か
Z08_0364B03: やうの歌にて。上人つね〲御心づかひ思ひしる
Z08_0364B04: べし。今の世のふつ〻かなる隱遁者とは。雲泥萬里
Z08_0364B05: なり。人の數奇と情とは。年月にそへておとろへゆ
Z08_0364B06: くと。鴨長明がかけるもさる事ぞかし。さて小松谷
Z08_0364B07: は。洛東大佛殿の艮。淸水寺の坤の方にあり。小松殿
Z08_0364B08: も此所にありし也。元久元年の春。隆寬律師に。撰擇
Z08_0364B09: 集を授け給ひけるも此處にての事也。配所へも此
Z08_0364B10: 御坊より出で立ち給へり。又小松といふ所。此外に
Z08_0364B11: もあり。されど上人所住の跡は此所なるべし。傳
Z08_0364B12: 云。官人小松谷の御房にむかひて。いそぎ配所へう
Z08_0364B13: つり給ふべきよしを責め申ければ。遂に都を出で
Z08_0364B14: 給ふ。月輪殿御名殘をおしみて。法性寺の小御堂に
Z08_0364B15: 一夜と▲めたてまつられけり云云。しかれば。是より
Z08_0364B16: 九條を經て。鳥羽におもむき給へるなるべし。法性
Z08_0364B17: 寺のありし所は。九條河原なり。くれ〲此一首優
Z08_0364B18: しき歌なり。その時。その景風。その人を思ひ入て見
Z08_0364B19: るべし。
Z08_0364B20: 上の句におぼつかなといひ出でて。下の句に

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