浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0366A01: | 美を盡せり。これ和尚その地をなすといへども。法 |
J18_0366A02: | 兄精勤の功行にあらずんば。何ぞかく速に成ること |
J18_0366A03: | を得んや。寬政十二年庚申正月。華頂山御忌唱導の |
J18_0366A04: | 任たり。このゆゑに前年の冬。内登高座の式を勤修 |
J18_0366A05: | す。その頃より心地例ならざりしかども。翌年の春 |
J18_0366A06: | いゆることを比たり。しかるに和尚病床にふし給ひ |
J18_0366A07: | しかば。法兄醫藥みづからなめ。看護寐食を廢して |
J18_0366A08: | 怠らず。和尚遂に入滅し給ひし翌年。法兄病また發 |
J18_0366A09: | す。秋冬にいたりて藥治功なし享和二年壬戌夏四月 |
J18_0366A10: | 廿三日。古郷の老母逝するの訃音いたる。法兄もと |
J18_0366A11: | 至孝なり。悲哀禮にすぐ。これより病日を追てあつ |
J18_0366A12: | し。みづから起べからざるを知りて。あらかじめ後 |
J18_0366A13: | 事を囑し。至心に念佛して。死のいたるをまつ。秋 |
J18_0366A14: | 七月廿八日。予枕頭にありていはく。法兄この病は |
J18_0366A15: | これ必死の症なり。此寺かくのごとく建立成就せ |
J18_0366A16: | り。妄情を殘すことなしやと。答て曰く。生死の一 |
J18_0366A17: | 大事。我よく平日これを覺悟す。况や今際の時に於 |
J18_0366B18: | てをや。永劫生死の苦境を離れ。速疾に淨土に生ぜ |
J18_0366B19: | ば豈快慶ならずや。夢幻の三界。いづれのところに |
J18_0366B20: | か。妄執を殘さん。况や此一小寺に於てをや。我こ |
J18_0366B21: | れを忘たるが如し。またたとひ長生すとも。遂に死 |
J18_0366B22: | をまぬがるることなけん。老身不自在にして死せん |
J18_0366B23: | よりは。今度命終せば。大幸といふべし。法弟我た |
J18_0366B24: | めに苦心すべからず。ただ爲に念佛せよと。されば |
J18_0366B25: | 萬般放下して。もはら終焉の思ひあり。八月三日病 |
J18_0366B26: | とみにいへたるがごとし。身心安樂なりとて。終日 |
J18_0366B27: | 終夜至心に念佛せらる。翌日先妣の百箇日の辰なれ |
J18_0366B28: | ばとて。齋をまふけて衆僧を供養す。時に弟子中 |
J18_0366B29: | 察。枕頭にありて念佛せしが。たちまち法兄の顏色 |
J18_0366B30: | の變ぜしに驚き。心地いかんととはんとするに。頭 |
J18_0366B31: | のかたぶきしとみれば。はや息たえたり。微も苦惱 |
J18_0366B32: | の相あることなし。實に享和二年壬戌八月四日辰の |
J18_0366B33: | 下刻。世壽四十三なり。嗚呼法兄いときなきより。 |
J18_0366B34: | 先師和尚の嚴誡をまほりて。生涯男女の境にふれ |