忌詞
提供: 新纂浄土宗大辞典
いみことば/忌詞
ある特定の時や場所において使用することを忌む言葉。あるいはその代用語のこと。例えば、結婚式で「戻る」は「出戻る(=離婚)」を連想させるので使うのを避け、また「終わり」の代わりに「おひらき」という言葉を用いるのはこれにあたる。文献上での最初の忌詞は神亀二年(七二五)に記された『造伊勢二所太神宮宝基本記』(『続群書類従』第一輯 巻第三)に見られ、仏を立須久美、塔を阿良良岐、僧侶を髪長といい、神事に対し仏事を忌んだので、仏事に関する言葉を言い換えている。また死を奈保留、病を夜須美、血を阿世、墓を壌というなど、これも神事には禁忌とされていたものを忌詞として言い換えている。忌詞は、生業や場所、時を基準にすえると、山言葉、沖言葉、祭礼言葉、相撲言葉、夜言葉、正月言葉、縁起言葉、女性詞、遊郭詞などと分類できる。狩猟を生業とするマタギは猟のために山に入ると様々な禁忌が要求され、禁を犯すと怪我をしたり獲物が取れなかったりすると考えたが、秋田荒瀬(現・秋田県北秋田市)のマタギでは女性に関する一切、殺す、死ぬなどに関する言葉が忌詞とされ、この禁を犯した者は浅俵を頭に載せて水を三三回掛けられたという。忌詞が発生する背景には、言葉には霊が宿り、口にすることにより霊威が働き、言われた事物や現象が発現するとする「言霊信仰」があるとされる。
【参考】北見俊夫「忌詞」(『講座・日本の民俗宗教 四 巫俗と俗信』弘文堂、一九七九)、国田百合子「忌詞と女性語」(『日本女子大学紀要文学部』三〇、一九八〇)、柳田国男『禁忌習俗語彙』(国書刊行会、一九七五)
【参照項目】➡忌み
【執筆者:名和清隆】