三心私記
提供: 新纂浄土宗大辞典
さんじんしき/三心私記
一巻。良忠述。『選択集』第二章および第八章に対する部分的な注釈書。三心に関する『観経』の経文、その善導の釈文、および善導の三心釈について注釈したもの。その内容は①『観経』の経文「若有衆生願生彼国者発三種心即便往生」とその善導の釈文、②『観経』の経文「云何為三一者至誠心二者深心三者回向発願心具三心者必生彼国」とその善導の釈文、③善導の至誠心釈、④善導の深心釈、⑤善導の回向発願心釈の五部門より成り立っており、それぞれに大意・引文・解義・問答の四門形式によって解釈が施されている。良忠が建長六年(一二五四)一〇月上旬に在俗の念仏者江の禅門のために撰述し、授与したとされるが、その江の禅門については、下総国海上郡銚子付近の念仏者とする説、鏑木九郎胤定とする説等がある。初期の良忠撰述書である『領解抄』の三心釈の影響を受けて成立し、後の『疑問抄』の三心釈に大きな影響を与えた。また五巻本『決疑鈔』第二章五番相対の釈文・第八章の釈文の約半数は全く本書と一致する。本書は初期良忠教学における主要な問題点を明らかにしており、晩年に至って大成される三心釈の主要な課題は、『三心私記』撰述時においてすでにすべて出揃っていたといえよう。
【所収】『三心私記裒益』
【参考】廣川堯敏「新出の良忠述・一巻本『三心私記』について」(『仏教文化研究』三二、一九八七)
【執筆者:廣川堯敏】