孝養集
提供: 新纂浄土宗大辞典
こうようしゅう/孝養集
三巻。覚鑁の撰述と伝えるが詳細は不明。永観『往生拾因』の引用がみえることから、平安後期から鎌倉期にかけての撰述と考えられる。病床の母親のために三七箇条の平易な文で、往生浄土と臨終行儀について記したもの。上巻では罪をなすことによって地獄に堕ちることや、六道について詳述、中巻では三界六道を厭い浄土往生の肝要が念仏であることを強調し、下巻では臨終行儀について詳述している。本書には空海『十住心論』が頻出し、己心の弥陀、光明真言の功徳を強調するなど、作者は覚鑁でなくとも高野山真言系の僧が想定される。一方で、下巻の臨終行儀については『往生要集』を重視しており、また中巻には『法華経』の書写を勧めるなど天台との融合も顕著である。中世の東密系の浄土教を探るうえでも興味深い書である。
【所収】続浄一五、『興教大師全集』
【参考】櫛田良洪『真言密教成立過程の研究』(山喜房仏書林、一九六四)、伊原照蓮「運敞僧正と孝養集」(『興教大師覚鑁研究』春秋社、一九九二)
【参照項目】➡覚鑁
【執筆者:伊藤茂樹】