ぼさつじゅうむじんかい／菩薩十無尽戒

菩薩が決して犯してはならないとされる一〇種の禁戒。十重禁戒の異称。十無尽蔵戒、十不可悔戒ともいう。『梵網経』二に、「かくのごとき十波羅提木叉じゅうはらだいもくしゃ、世界に出ず。この法戒はこれ三世一切の衆生、頂戴受持するところ、吾今当にこの大衆の為に重ねて十無尽蔵戒品を説くべし。これ一切衆生の戒の本源にして自性清浄なり」（正蔵二四・一〇〇三下）と説かれる十無尽蔵戒品からこの名称がついたとされる。また一々の戒に無量の菩薩戒を包摂し、無量の法門を具足していることから無尽蔵とされる。なお菩薩十無尽戒の用例はあまり見られず、善導が戒の多様性を提示する中で、「菩薩三聚戒十無尽戒」と併記することから菩薩の名称が冠されるようになったと考えられる。

【資料】『菩薩瓔珞本業経』二（正蔵二四）、『観経疏』序分義（聖典二／浄全二）、『往生礼讃』（浄全四）

【参考】大野法道『大乗戒経の研究』（山喜房仏書林、一九五四）