遁世
提供: 新纂浄土宗大辞典
とんせい/遁世
世俗・世間を逃れて仏門に入ること。「とんせ」「とんぜい」ともいう。もともとは出家と同義であったが、日本では時代によってその意味するところがさまざまに変化した。平安時代中頃から、出家者の中に所属する教団との関係を絶ち、寺院から離れて山野の小庵などに隠棲閑居する者があらわれ、鎌倉時代には多く認められるようになる。彼らのように出家社会での名利栄達を望まず個人としての求道生活を行う僧を遁世僧という。いわば再出家者である。『源空聖人私日記』には、法然一八歳のときの黒谷への「遁世」が記されている。一方、受戒制度が厳密に運用されなくなるに伴い、正式な手続きを経ずに僧形となる者も多くあらわれるようになったが、このような人々も遁世者と見られるようになった。その中には中高年に至って出家する、いわば途中出家者も含まれる。その後、芸能民や漂泊民が遁世者として振る舞い、本来の宗教性から離れたものとなってゆく。鎌倉時代の説話集『撰集抄』『発心集』は遁世者を主題とし、『一言芳談』は遁世者の法語集として著名である。
【参照項目】➡隠遁
【執筆者:池見澄隆】