無神論
提供: 新纂浄土宗大辞典
むしんろん/無神論
神を否認する哲学的もしくは宗教的な立場をさす。宗教史上においては、無神論は成立宗教の否定として登場する。古代ギリシアではアテナイ公認の国家的宗教に合致しない行為をしたソクラテスなどが無神論のゆえに裁判にかけられ、一世紀頃までは、キリスト教徒もローマ公認宗教への参加を拒否したため無神論者と呼ばれていた。それゆえキリスト教以後のヨーロッパでは、無神論とはもっぱらキリスト教の否認者に与えられる名称となった。これに対して、理論的な立場から人格的な神の信仰、つまり有神論を否定する無神論が存在する。主なものに、世界を物質から一元的に説明しようとする唯物論、および世界の不完全性、中でも道徳的悪の存在からの否定論、実存哲学の一部などに、この意味の無神論がある。また「神を立てない」宗教という意味で、宗教学では、一部の原始宗教や神秘宗教および仏教を「無神的宗教」に分類することがある。一方「神の死」という表現で示唆される無神論は、使い古された概念ではすでに神は捉えられないとする既成の人格神観への批判的主張である。
【参考】アンリ・アルヴォン著/竹内良知・垣田宏治訳『無神論』(『文庫クセジュ』四七四、白水社、一九七〇)、久松真一『無神論』(『法蔵選書』六、法蔵館、一九八一)
【参照項目】➡神
【執筆者:挽地茂男】