「近代仏教学」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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きんだいぶっきょうがく/近代仏教学
明治期にもたらされたヨーロッパの人文科学における文献学や歴史学等に基づく仏教研究の方法で、その影響を受けて発展した日本の仏教研究のあり方に対する名称。日本が近代仏教学と出会ったのは明治九年(一八七六)に真宗の南条文雄、笠原研寿がイギリスのマックス・ミューラーのもとで学んだことを嚆矢とする。近世以前の仏教研究と近代の研究を経典研究を例にあげて比較してみると、前者は漢訳経典に対する各宗祖や著名な学僧の解釈に基づいて教理体系を理解するための学問であり、それは煩瑣な哲学的研究で、護教意識の強い教学体系の研究であった。これに対してヨーロッパの学者がサンスクリット語やパーリ語等の仏教文献を研究対象にしたのは、言語学的・歴史学的・思想史的学問に関心をもったからであった。そのなかでも語学的知識を駆使した研究業績は、日本の研究者にとって目を見張らせる学問領域であった。日本における原典研究の成果は、まずパーリ語聖典の内容を知ることによって釈尊の教説、思想内容を知り、原始仏教の理解が飛躍的に発展したことにある。またサンスクリット語文献の解読によって漢訳経典の原典を知ることになり、漢訳の異訳経典の比較によって仏教思想の変容も解明されるようになった。ヨーロッパの研究態度と方法が日本の仏教学研究に大きな刺激を与えることになり、ここに客観的、科学的な近代仏教学が成立することになった。その最初期の研究者は多く真宗から出たが、浄土宗からも明治三二年(一八九九)に荻原雲来、翌年には渡辺海旭がドイツに渡り浄土宗における近代仏教学の研究が始まった。これまでの研究史の成果として仏滅年代論、大乗仏教成立論、批判仏教などが指摘される。しかし、一方では、仏教学はより現代仏教に関心が寄せられるべきである、との提言があり、仏教学への批判と反省もおきている。
【参考】石上善應「近代仏教学の成立」(『理想』三六四「現代日本の仏教」、一九六三)、高崎直道「仏教学の百年」(『東方学』一〇〇、東方学会、二〇〇〇)、末木文美士『近代日本と仏教』(『近代日本の思想・再考Ⅱ』トランスビュー、二〇〇四)
【執筆者:大南龍昇】