「選択本願念仏集(広本)」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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せんちゃくほんがんねんぶつしゅう(こうほん)/選択本願念仏集(広本)
『選択集』の異本。略本に対して増広されたものという意味で「広本」とされる。良忠『決疑鈔』一に「故に広本には念仏為本と云う」(浄全七・一九〇下)とある如く、『選択集』註書の中で語句の異なる『選択集』としてその名が挙げられている。また同『決疑鈔』五(浄全七・三四七上)や『選択要決』(浄全七・一八四下)には、『選択集』に広略の二本あることを述べ、九条兼実への高覧本を略本とし、執筆した弟子によって初学者のために名目が加筆されたものを広本としている。そして、両本の違いは僅かであるが高覧本である略本を正本とすべきであると記している。また尭恵『選択私集鈔』八(『仏教大系』四三『選択集』二・七三六)にはこの増広者について「広本は真観房、後日初心者の為に聊か勘文を加う」として、具体的に真観房の名を挙げている。さらに義山開版本の跋文には、『選択集』に稿本、刪本、正本、広本の四種の異本があるとし、「第四広本、門人其の文を増証する者これ也」(浄全七・七六)として、ここでも増広されたものとして広本の名が挙げられている。義山によれば稿本と広本は流布しなかったとされるが、現在龍谷大学に蔵する存覚が覚善に相伝したとされる『延書選択集』は、他本に比べ加筆が見られ、それらは『決疑鈔』等に広本として引用せられる文句と一致するので、広本を延書にしたものであるといわれている。その「延書本」は第九章までしか現存していないが、その特徴としては巻頭の「念仏為先」が「念仏為本」となっていることである。さらに本文では、補足的な加筆が各章に少しずつ見られ、特に第二章においては、五種正行の解釈の中「等」や「定」の文字についての解説の付加や、二行の得失を述べる中での「八蔵」「四含」等の一々の名目を連ねる等多くの増広が見られる。また、現存東大寺講説『大経釈』はこの広本と一致する部分が多く、『広本選択集』から加筆されたものであることが指摘されている。
【参考】石井教道『選択集の研究 総論篇』(平楽寺書店、一九五一)
【執筆者:兼岩和広】