釘念仏
提供: 新纂浄土宗大辞典
くぎねんぶつ/釘念仏
栃木県日光市・旧寂光寺に伝わる念仏。先亡追善と念仏者自身の往生のために行われる。旧寂光寺に伝わり、今は日光山輪王寺が所持している『寂光寺釘念仏縁起』によると、覚源が仮死した際にみた地獄の様子についての伝説が、この念仏が始められた要因とされる。この伝説では、地獄に落ちた亡者は四十九日の間に四九本の釘を身体に打ち込まれ、その釘は現世における罪悪の軽重によって長さが違う。そのため現世に生きている間に、仏に対する信心を持ち功徳を積んで四九万遍の念仏を称えることによって、釘を打ち込まれる苦しみから逃れられる、と言い伝えられている。この念仏の始まった由来などはよくわかっていないが、室町時代から寂光寺を中心に釘念仏が行われていたと言われている。江戸時代以降は、釘念仏は全国に広がったとされる。たとえば新潟県佐渡市には釘念仏の石塔が現存し、高知県長岡郡大豊町では今では行われていないが、釘念仏を再開する試みが行われている。伝承のもととなった寂光寺は廃仏毀釈の際に廃寺になり、現在では若子神社として社が現存するのみである。釘念仏に関するお札と誓紙は、現在でも日光山三仏堂および常行堂において授与している。
【参考】佛教大学民間念仏研究会編『民間念仏信仰の研究 資料編』(隆文館、一九六六)
【執筆者:齋藤知明】