無
提供: 新纂浄土宗大辞典
む/無
存在しないこと。何もないこと。「有」に対する矛盾概念で非存在を意味する。ⓈasatⓈabhāvaなどの訳語。老子の説く無は仏教の説く無とは異なる。インド思想においては、認識されないことが無として捉えられ、この概念は、紀元前五世紀頃のヴェーダにも記載される。また般若経典類や龍樹『中論』などに説かれる空性は自性の無を存在論的に捉えたものである。それによると、ここで言う無は相対的な有無を超えたものとして捉えられている。仏教では有と無の二辺において、一方的に有や無に偏った極端な考え方は誤りとするからである。『中論』一には、「諸法の自性の如きは、縁の中に在らず、自性無きを以っての故に、他性も亦た復た無し」(正蔵三〇・二中)とあり、無の性質を述べている。無については経論や学派によって異同があるが、ヴァイシェーシカ学派では未生無・已滅無・更互無・不会無・畢竟無の五種の無があるとしている。
【資料】『中論』
【執筆者:薊法明】