一念義停止起請文
提供: 新纂浄土宗大辞典
いちねんぎちょうじきしょうもん/一念義停止起請文
「遣北陸道書状」「北国書状」「遣北越書」(以上、古本および正徳版の『漢語灯録』)「一念義停止の状」(『九巻伝』)とも呼ばれる。法然著。承元三年(一二〇九)六月一九日の日付があることから、法然が勝尾寺滞在中、七七歳のときの著述であることが分かる。北陸道に広まっていた一念義(『九巻伝』では幸西の弟子善心坊の教えとする)を誡める制誡文献。なお、「一念義停止起請文」は『四十八巻伝』に基づくタイトルであるが、内容的には「起請文」というより「制誡」としての性格が強い。年月日が付されていることからして、公式文書的性格を有すると考えられる。『漢語灯録』一〇には漢文体で、『琳阿本』七、『九巻伝』六下、『四十八巻伝』二九には和文体で収録される。『四十八巻伝』によると、『越中国光明房へつかわす御返事』に添えて出されたものとされる。「多念すべからず。俗服を着し、姦淫・食肉も憚るべからず」といった一念義の主張を紹介し、それを厳しく非難する。また、当地の一念義主唱者が、自分は法然の秘儀を伝える者であると述べていることに対しても、真っ向から否定する。なお、本文献には偽撰説も提示されているが、他の制誡書と共通要素がみられることから、それらと同様、法然の監修のもと、草稿・原案は聖覚などの弟子が執筆した可能性も考えられる。
【所収】昭法全、聖典六
【参考】大橋俊雄「法然上人語録研究序説—特に語録研究の回顧と展望を中心として—」(浄土学二七、一九六〇)
【参照項目】➡越中国光明房へつかわす御返事
【執筆者:安達俊英】