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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0376A01: ますます勉勵せらる。十六歳の夏。四月二十二日。
J18_0376A02: 三寶に誓て。晨昏二時の勤行式を定らる。各線香四
J18_0376A03: 炷を一時とし。勵聲念佛せられき。曉のつとめ終て
J18_0376A04: も。東方なほ明ざれば。自草鞋を作て。巡禮道者な
J18_0376A05: どに施與られたり。さても。晝のいとなみ。夜のつ
J18_0376A06: とめ。いとはげしかりけるより。時として睡魔の妨
J18_0376A07: やあるらんとて。此ころよりみづから平臥を禁じ給
J18_0376A08: へり。脇尊者の昔もおもひあはせられて。いと殊勝
J18_0376A09: なる事になむ。
J18_0376A10: 山村の習ひ。佳節を祝し。神を祭るひなどには。少
J18_0376A11: 長男女。寄集ひ。酒宴圍碁などする事なるを。師は
J18_0376A12: 獨。後の山の洞の中に入て。木鉦を叩き。念佛禮拜
J18_0376A13: せられたり。
J18_0376A14: 師の家を距事。東の方五里許にして。大瀧河の月正
J18_0376A15: 寺といへる幽邃の寺あり。住持の僧を大良といへ
J18_0376A16: り。專修念佛の行者なり。師。屢屢この寺に行て。
J18_0376A17: 別時念佛せらるること。月に五日。或は七日なり。
J18_0376B18: 住持も師を得て大によろこび。同じく勇進して勤修
J18_0376B19: せり。師家に在ては。毎朝かならず溪水に垢離とら
J18_0376B20: れたり。ここにてもかたの如く垢離せられければ。
J18_0376B21: 垢離石とて。今も寺のかたはらに存在せり。
J18_0376B22: 一とせ雪いたく降ける日。母堂のいかに寒おはさん
J18_0376B23: とて。いろりに薪さしくべて。火焚居給ひたるに。
J18_0376B24: 髮髭いと白き老翁。門の戸さしのぞきたり。回國行
J18_0376B25: 者にやとおもひて。今日はいと寒かるを。暫この火
J18_0376B26: にあたりませといはれければ。この老翁。つと入來
J18_0376B27: て。とばかり見て。扨いへりけるは。君の相好凡人
J18_0376B28: ならず。後日。世の爲人の爲。いみじき知識とこそ
J18_0376B29: は成給ふらめ。これ參らすなり。よく讀てよといひ
J18_0376B30: て。文一枚とり出しつ。辱とてうけ戴て。讀給へる
J18_0376B31: ひまに。この老翁いづち行けんみえず也にけり。降
J18_0376B32: 積たる雪の路。あと追べきよしもなくてやみぬ。こ
J18_0376B33: れなん例の一枚起請文なりける。師これを得られて
J18_0376B34: 後は。往生極樂の明證。これに過ずとて。かねて襟

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