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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0377A01: にかけられたる。南龍公の父母帖とともに。常に護
J18_0377A02: 持せられけり。師。生涯の法話。この文の外をの給
J18_0377A03: はざりしも。かかるいはれあればなるべし。
J18_0377A04: 常に親族を警誡しての玉はく。常に臘月晦日の心に
J18_0377A05: なりて。家業を勵べし。さすれば三十日は平日より
J18_0377A06: も安かるべし。一年の卅日すら平生用意せずして
J18_0377A07: は。時に臨で狼狽する事多かるべし。况。臨終の三
J18_0377A08: 十日に於をや。宜平生に用意して。往生の資糧を貯
J18_0377A09: 置べしとぞ申されける。
J18_0377A10: 或時。家族の他を誹謗せるを聞ての玉はく。汝ら何
J18_0377A11: ぞ我身をそしらるる事を求るや。人をそしれば人ま
J18_0377A12: た我をそしる。響の聲に應ずるが如し。人を誹る事
J18_0377A13: は大罪也とて。嚴誡給へり。
J18_0377A14: 德を積とは。人目にたたぬこそ誠の德をつむなれ。
J18_0377A15: 是を陰德といふ。人の爲になる事ならば。人しらず
J18_0377A16: とも行ふべし。たとへば。草木の種を蒔に。人目に
J18_0377A17: たたずとも。まきだにすれば。生出るもの也。善根
J18_0377B18: も又かくの如しとぞ申されける。
J18_0377B19: 人にそしらるるは。我身のよき知識とおもふべし。
J18_0377B20: わが身のあしき事は。みづからはしれぬものなり。
J18_0377B21: 我身のあしき事を聞て改れば。やがて善人とはなる
J18_0377B22: なりとぞ申されける。また親族などど假そめの閑話
J18_0377B23: にも。虚實不分明なる事などいへるを聞玉へば。忽
J18_0377B24: 聲を勵しうして。何とて定ならぬ事を。みだりに詞
J18_0377B25: に出しつるぞ。大なるあやまちも。はつかの一言よ
J18_0377B26: り起るもの也とぞ呵せられける。
J18_0377B27: 安永五年の春の頃師の父病惱の事有けり。師。屢屢
J18_0377B28: 醫藥を若山に覔らる。その往返すべて山路を經て十
J18_0377B29: 里許五十丁一里なるを。朝は家を出て。夕にはかならず
J18_0377B30: 歸られたり。病はげしき頃は。藥をもとむる事。一
J18_0377B31: 月に十餘度に及でも。絶て人に託し給ふ事はなかり
J18_0377B32: きとぞ。その至孝おもひみるべし。かくて師の父
J18_0377B33: は。その年の三月二十五日に。正念に命終せらる。
J18_0377B34: よはひ六十七とぞ。

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