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J2750 徳本行者伝 行誡 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0375A01: のみ奉りて。念佛となへよかしとぞ敎られける。隣
J18_0375A02: 兒の別いとをしかるに。懇なる母堂のをしへ肺腑に
J18_0375A03: しみ給ひ。何となく有爲の世の憑がたき事をおそる
J18_0375A04: る心つきて。其後は誰勸るともあらぬに。常に念佛
J18_0375A05: をぞ唱られたりける。師老年に及れしのちにも。む
J18_0375A06: かし四歳の時。無常におどろきし事は。今も猶わす
J18_0375A07: れやらずと。をりをりは申れき
J18_0375A08: 師。幼稚の時といへども。其風度。遙に尋常の兒輩
J18_0375A09: に卓出して。曾て竹馬鳩車の戲を好まず。かりそめ
J18_0375A10: の遊にも。佛乘をしたふ癖ありて。笠を頂につけて
J18_0375A11: は佛の後光に擬し。指を屈ては印契を學び。群兒を
J18_0375A12: 使令するにも。樹下石上にありて。我は佛也など申
J18_0375A13: れけり。さればこの兒はいかにも宿善ある人なら
J18_0375A14: ん。前賢古德の跡にも似とて。見るもの感歎せざる
J18_0375A15: はなかりけり
J18_0375A16: 母堂の敎示を聞しより後は。世の無常をおそれ。後
J18_0375A17: 世菩提を願ふことわり。片時も忘給はず。九歳の春
J18_0375B18: のころ。出家せまほしきよし。父母に乞申れけれど
J18_0375B19: も。嫡子なるうへに。性質もただならざればにや。
J18_0375B20: 絶て許さるべき氣色もなし。もとより至孝の志ふか
J18_0375B21: かりければ。其後はあながちに求給ふ事もなかりけ
J18_0375B22: り。時のいたるを待れけるなるべし
J18_0375B23: 十歳を過るころより。念珠を袖にいれて。日課の念
J18_0375B24: 佛を修せられけり。いまだいとけなき身にして。い
J18_0375B25: らぬ事するものかななど。誹咲ふものあれば。あな
J18_0375B26: 淺まし。今にも無常の來るをしらずやとて。やがて
J18_0375B27: 其座をたたれたり
J18_0375B28: このあたりは。談婆姑艸を多く植養ふ處なり。もし
J18_0375B29: 虫生ずる時は。かならず取て捨るを常とす。一年た
J18_0375B30: ばこの畑におびたたしく虫生じたり。師ひたすらに
J18_0375B31: 念佛唱つつ。畑の畔をめぐらるるに。其虫どもいつ
J18_0375B32: しか跡もなく也ぬる。念佛の功德にて。虫の生を轉
J18_0375B33: ぜしならんとぞ申れける
J18_0375B34: 人となるに隨て。其志操愈堅固にして。念佛の修行

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