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J1370 一枚起請講説 法洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J09_0292A01: 念念不捨なりき。母沒して他にうつられけるが。かか
J09_0292A02: る世捨人なれば。いたる所にて。男女こぞりて。歸依
J09_0292A03: し供養すれば。やがて其所を立退きて。凡そ生涯居
J09_0292A04: を移さるること。五十四ケ所なりとぞ。其住家には。西
J09_0292A05: の壁に自書の六字名號。一枚起請をかけたるのみに
J09_0292A06: て。香華燈明の供具もなく。朝にはもろこし我朝と
J09_0292A07: 云より。高らかに拜讀し。玉散る計涙落して。極重
J09_0292A08: 惡人助け給へと。ほれぼれと念佛せらるるさま。思
J09_0292A09: 想雜念を放下し給ふ風情なりき。されども性得至て
J09_0292A10: 強氣にして。患難極苦といへども。少しも恐るる心
J09_0292A11: なく。高貴は道俗ともに厭ひさけて。富家の請をば。
J09_0292A12: 別けて受らるることなし。實に浮世を夢幻と觀ぜられ
J09_0292A13: し心。自ら面にあらはる。後には人の訪ひ來んもむ
J09_0292A14: つかしとて。袈裟衣をも被著せず。十德やうのもの
J09_0292A15: を著て。希れに人の發心の由來など尋れば。おのれは
J09_0292A16: 妻子におくれ。世わたる業も。うとましくて。かしら
J09_0292A17: おろせる者なり。何一つ覺へたることもなしと。答ら
J09_0292B18: れき。元文五年庚申の秋の頃。病にかかり。日本橋
J09_0292B19: ちかき乘物町と云所に。橋本氏なる人は。肉兄なり
J09_0292B20: ければ。かしこにうつり念佛せられけり。醫藥をすす
J09_0292B21: むれども。更に用ひられず。八月八日。家内の者をよ
J09_0292B22: びて。我いみじき佛の御告を蒙りしかば。明日は往
J09_0292B23: 生するなり。誰も誰も。此度是非とも。生死を離れ
J09_0292B24: んと願ひて。念佛すべし。淨土に往生せんことは。口
J09_0292B25: 稱名號ならでは。かなひ難き旨。慇に敎誡ありて。
J09_0292B26: 其夜は終霄念佛し給ふこと。平生に過たり。九日の曉。
J09_0292B27: 病床を起き出て。西に向ひ端座し。合掌念佛數百遍。
J09_0292B28: 少しの苦痛もあることなく。眠るが如く息絶給へり。
J09_0292B29: 顏ゑみを含みて。歡喜の色あらはる。人人拜瞻して。
J09_0292B30: 感仰念佛せり。時年五十四なり。荼毘の後遺骨を駒
J09_0292B31: 込光源寺に收めけり。ああ賢哉。覺源上人。御遺誓
J09_0292B32: を徹信し。ある才智を拂却し。愚癡にかへりて。大
J09_0292B33: 往生を得給へり。爾るに。我人はもとよりの愚鈍な
J09_0292B34: るに。なき智解を。あり顏にほこらんは。こはいか

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