浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J09_0292A01: | 念念不捨なりき。母沒して他にうつられけるが。かか |
J09_0292A02: | る世捨人なれば。いたる所にて。男女こぞりて。歸依 |
J09_0292A03: | し供養すれば。やがて其所を立退きて。凡そ生涯居 |
J09_0292A04: | を移さるること。五十四ケ所なりとぞ。其住家には。西 |
J09_0292A05: | の壁に自書の六字名號。一枚起請をかけたるのみに |
J09_0292A06: | て。香華燈明の供具もなく。朝にはもろこし我朝と |
J09_0292A07: | 云より。高らかに拜讀し。玉散る計涙落して。極重 |
J09_0292A08: | 惡人助け給へと。ほれぼれと念佛せらるるさま。思 |
J09_0292A09: | 想雜念を放下し給ふ風情なりき。されども性得至て |
J09_0292A10: | 強氣にして。患難極苦といへども。少しも恐るる心 |
J09_0292A11: | なく。高貴は道俗ともに厭ひさけて。富家の請をば。 |
J09_0292A12: | 別けて受らるることなし。實に浮世を夢幻と觀ぜられ |
J09_0292A13: | し心。自ら面にあらはる。後には人の訪ひ來んもむ |
J09_0292A14: | つかしとて。袈裟衣をも被著せず。十德やうのもの |
J09_0292A15: | を著て。希れに人の發心の由來など尋れば。おのれは |
J09_0292A16: | 妻子におくれ。世わたる業も。うとましくて。かしら |
J09_0292A17: | おろせる者なり。何一つ覺へたることもなしと。答ら |
J09_0292B18: | れき。元文五年庚申の秋の頃。病にかかり。日本橋 |
J09_0292B19: | ちかき乘物町と云所に。橋本氏なる人は。肉兄なり |
J09_0292B20: | ければ。かしこにうつり念佛せられけり。醫藥をすす |
J09_0292B21: | むれども。更に用ひられず。八月八日。家内の者をよ |
J09_0292B22: | びて。我いみじき佛の御告を蒙りしかば。明日は往 |
J09_0292B23: | 生するなり。誰も誰も。此度是非とも。生死を離れ |
J09_0292B24: | んと願ひて。念佛すべし。淨土に往生せんことは。口 |
J09_0292B25: | 稱名號ならでは。かなひ難き旨。慇に敎誡ありて。 |
J09_0292B26: | 其夜は終霄念佛し給ふこと。平生に過たり。九日の曉。 |
J09_0292B27: | 病床を起き出て。西に向ひ端座し。合掌念佛數百遍。 |
J09_0292B28: | 少しの苦痛もあることなく。眠るが如く息絶給へり。 |
J09_0292B29: | 顏ゑみを含みて。歡喜の色あらはる。人人拜瞻して。 |
J09_0292B30: | 感仰念佛せり。時年五十四なり。荼毘の後遺骨を駒 |
J09_0292B31: | 込光源寺に收めけり。ああ賢哉。覺源上人。御遺誓 |
J09_0292B32: | を徹信し。ある才智を拂却し。愚癡にかへりて。大 |
J09_0292B33: | 往生を得給へり。爾るに。我人はもとよりの愚鈍な |
J09_0292B34: | るに。なき智解を。あり顏にほこらんは。こはいか |