王
提供: 新纂浄土宗大辞典
おう/王
一般には君主制における元首。本来は中国を支配する者を意味したが、戦国時代に諸侯も名乗り始め、のちに地方領主や周辺国の国主に対して皇帝から贈られる称号となった。また日本では天皇に近い皇族男子を指す。仏典ではⓈrājanの訳語。釈尊在世時には、釈尊の父である浄飯王、韋提希の夫で竹林精舎を寄進したマガダ国の頻婆娑羅王、コーサラ国の波斯匿王などが、入滅後もアショーカ王やカニシカ王などが、仏教に帰依し外護者となって仏教教団の発展を支えた。また仏舎利の一部をもらい受けたリッチャヴィ族のような共和制の国も、その指導者は王を称した。仏典に登場するような古代インドの王のあり方は、『マヌ法典』や、カウティリヤの『実利論』などを通じて知られる。王は武人であり人民の守護を義務とするクシャトリヤの種姓が担い、世間が弱肉強食の状態に陥らぬよう、強力な王による統治は不可欠なものとされた。王は国民を刑罰の権限により統制しつつ、諜報・政略・軍事などを駆使して国内外の危機を防止し、王国の保全を図らねばならないと説かれる。仏教の考える王の理想像は、龍樹が王に執政の上での仏法の遵守を説いた『宝行王正論』や『勧誡王頌』、また『瑜伽論』六一、『王法正理論』等に説かれ、またアショーカ王が仏法に基づく統治を行ったことが碑文などによって知られる。出世の仏法に対して世俗の法律・政治を王法という。王はその支配的立場、人民を凌駕する存在であることから、仏典では比喩的に、最も優れたもの、あるいは支配するものを表現する語として用いられる。浄土教において、念仏を王三昧、第十八願を王本願と表現すること、また『法華経』などの経典における「諸経之王」という表現もこの例に当てはまる。
【執筆者:小澤憲雄】