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偶像崇拝

提供: 新纂浄土宗大辞典

ぐうぞうすうはい/偶像崇拝

神以外の被造物、すなわち神ではない可視的対象物を神格化して崇拝すること。特に啓典宗教であるユダヤ教キリスト教そしてイスラームにおいて偶像崇拝は厳しく禁じられているが、それは偶像崇拝が唯一神たる神に対する反抗とみなされるためである。ユダヤ教の預言者モーゼに授けられた十戒の第一戒は「わたしのほかに神があってはならない」であり、偶像崇拝はまさにこの戒に背くことを意味する。それゆえ、偶像崇拝という言葉は、古代において上記三つの宗教が他宗教を非難、攻撃する際の理由としてしばしば用いられてきた。特に旧約聖書では、他宗教で信じられている神(啓典宗教からみると偶像神)に対する戦いの記述が多数見受けられる。啓典宗教からすれば他宗教の神(偶像神)は空しいものであり、人間の愚かさが生んだ忌み嫌うべき対象であった。新約聖書の時代(一~二世紀頃)になると、人間の愚かさが生んだ偶像を崇拝する異邦人たちも愚かな人々とされ、他宗教への差別意識が生まれ始めた。その意識は根深く、近年にいたるまで、啓典宗教は他宗教をそのまま偶像崇拝と結び付けて考える傾向を強く保持していたといえる。よって、偶像崇拝という言葉そのものがある一定の価値観を含んだ言葉であることは間違いなく、諸宗教をすべて等しく扱おうとする近年の傾向には馴染まないものとされている。もちろん偶像崇拝という言葉が使われる場面は特定の宗教に向けてのみではなく、広く一般には、精神的な豊かさを顧みることなく人間が作り出した物質や制度を、何にもまして信奉するなどの態度を批判的に見るときにも使われることがある。


【執筆者:山梨有希子】