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J2540 弾誓上人絵詞伝 宅亮 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0694A01: ○同國の北山に紫雲たなびきけるを見て。尋ね行給
J17_0694A02: ふに。いかにも淸淨無塵の勝境なり。爰に住して念
J17_0694A03: 佛し給ふに鹿猿に至るまで化益を蒙ること夥し。諸人
J17_0694A04: したひ來り程なく一宇を草創し。心驚無常山淨發願
J17_0694A05: 寺と號す。此寺今は朱章を給はりぬ。然るに此一の澤
J17_0694A06: と塔の峯とは溪山相隔ること凡十里なり。二山の間上
J17_0694A07: 人日夜往來し給ふに。その疾こと風のごとし。或は晨
J17_0694A08: 朝は塔の峯にて勤修し。日中は一の澤にて執行し給
J17_0694A09: へり。兩山兼住の間。都て六年を經たり。
J17_0694A10: ○巖窟寒風いと烈しかりけるに。不思議や空より大
J17_0694A11: 磐石降來りて北に落。宛も扉のごとくなりて自から
J17_0694A12: 寒風を屏け身心安居し給へり。此石に上人爪彫の彌
J17_0694A13: 陀とて今現に儼然として存在す。此石の上より日毎
J17_0694A14: に紫雲たなびき夜毎に聖衆の來迎あり。その傍に櫻
J17_0694A15: 有此木を伐て上人自の姿を刻み置なんとて斧を運ら
J17_0694A16: し給ふ半に。忽ち熱血流れ出けれは。唯此ままにし
J17_0694A17: て足ぬべしとて。袈裟を覆ひ函に入て釘を打てぞ殘
J17_0694B18: し給ふ。此半作の像今現に淨發願寺に有。
J17_0694B19: ○夫より遠州堀江の里舘山の巖窟に入念佛し給ふ
J17_0694B20: に。例のごとく化を蒙るもの市のごとし。或は漁獵
J17_0694B21: を止。あるひは五辛を斷。或は齋戒念佛す。玆にし
J17_0694B22: て又一宇を取立蓮花寺と號す。濟度の人數都て貳百
J17_0694B23: 七十萬餘なりき。
J17_0694B24: ○堀江の里を初め近隣の男女。毎年七月二日より十
J17_0694B25: 六夜にいたる迄を限り。斷肉潔齋して白き浴衣に菅
J17_0694B26: の笠を着。各棹に縋り鉦と太鼓をうち交て聲をはか
J17_0694B27: りに念佛す。此事の由來を尋るに。昔時甲斐信玄公
J17_0694B28: 合戰の節。數萬の軍兵此里堀江に沈み死したりき。
J17_0694B29: 其亡魂雨夜ごとに光り渡り聲を揚。野山に鯢波を作
J17_0694B30: る。國民これを驚怖して上人に歎きければ。上人告
J17_0694B31: て宣く。我敎に遵ふて箇樣箇樣に念佛を修しなば再
J17_0694B32: び出まじと示し給ひける。その示のごとくつとめけ
J17_0694B33: れば果して速にしづまりぬ。それより永く傳はりて
J17_0694B34: 今に斯のごとく修しぬることになんなりけるとぞ。是

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