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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0124A01: 望せられけるが。山間に破れ傾きたる茅屋の見えし
J18_0124A02: を。あれはいかなる者の住所にやと問はれけれは。
J18_0124A03: 同行の人かしこには。癩病人ども數多集り居候よし
J18_0124A04: 申す。師申されけるは。彼等は定て法化に預る事も
J18_0124A05: あるまじけれは。他生には又冥より冥に入り。苦よ
J18_0124A06: り苦に入りなん。いと不便の事なりと。すなはち彼
J18_0124A07: 小屋に立入て勸化せられ侍りしに。思ひの外に彼者
J18_0124A08: ども。たちまち信心を催し。ことごとく日課念佛を
J18_0124A09: 拜受してけり。其中に手足繚戾し。指なと落たるも
J18_0124A10: ありて。數珠を取り。員を認ることあたはず。いかが
J18_0124A11: し侍らんと尋ね申せしかは。師告られけるは。此中
J18_0124A12: に數珠を持て勤る者の側に居て。其者の數を以て。
J18_0124A13: わが數を知るべしと。敎へられしに。皆ことごとく
J18_0124A14: 悅びあへり。その後。かの者共相寄て。本尊を請じ
J18_0124A15: 奉り。鉦皷など求て。勇猛に念佛相續しけるとなん
J18_0124A16: 聞え侍る。昔極樂寺の忍性菩薩。伽摩羅疾の者あま
J18_0124A17: た集めて。其食を給し。爲に八齋戒を授け給ひしと
J18_0124B18: なん元亨釋書慈心物にあまねき事。古今一揆なるものを
J18_0124B19:
J18_0124B20: 一信夫郡八町目。安達郡本宮なといへるは。遊君あ
J18_0124B21: また住む所なり。師ひそかに思へらく。たまたま爪
J18_0124B22: 上の人身をうけ。龜木の佛敎にあふといへども。淫
J18_0124B23: 女のつたなき報ひを得て。日夜に障罪を重ね。空し
J18_0124B24: く惡趣に沈みなん。いとかなしきわざなりと。すな
J18_0124B25: はちみづから彼所に行て。彌陀の本誓。もとより機
J18_0124B26: の善惡を簡ばざれば。深く本願を賴みて至心に念佛
J18_0124B27: せば。往生疑ひあるまじき旨。ねんごろに敎化せら
J18_0124B28: れしに。遊君の中。深く信心を發して日所作なと受
J18_0124B29: しものあまたこれありとなん。長明がいへる如く。
J18_0124B30: 宅をならふる住民は。人を宿して主とし。窓にうたふ
J18_0124B31: 君女は。客をとどめて夫とす。あはれむべし千年の
J18_0124B32: 契りを。旅宿の一夜の夢に結ひ。生涯の樂みを。往
J18_0124B33: 還の諸人の望に係く。翠悵紅閨萬事の禮法ことなり
J18_0124B34: といへども。草の廬柴の扉一生の歡會これおなじ。

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