操作

末法灯明記

提供: 新纂浄土宗大辞典

まっぽうとうみょうき/末法灯明記

一巻。伝最澄撰。今世は末法間近であり、この時に至っては持戒堅固の僧は有名無実であり、無戒名字の僧こそが国のともしびとなることを表明した著述。本書の主旨は時代に即応した機と教えのあり方を問うことにある。それには末法の時を『大術経』『大集経だいじっきょう』の説示より考察し、現今を像法の末と判定し、そのような時代には釈尊の教えは残っても、行と証果はすでに廃れているから、その一の戒法も例外ではない。つまり持戒破戒は成り立たず、無戒の名ばかりの比丘びくのみこそ世の導師として敬われるべきであるとの結論に至る。本書は法然説法でも用いられた(『法然聖人御説法事』『醍醐本』)。また親鸞教行信証』化身土巻にほぼ全体の引用。さらに栄西の『興禅護国論』、日蓮の『四信五品鈔』、金沢文庫蔵『伝法絵略記抄』にも用いられ、鎌倉前期の仏教界での本書の広がりを看取できる。一三世紀前半の高山寺経蔵目録である『高山寺聖教目録』にもこの名がみえる。なお存覚による古写本がある(延文三年〔一三五八〕写、龍谷大学所蔵)。


【所収】『伝教大師全集』一


【参考】浅田正博『存覚上人書写本末法灯明記講読』(永田文昌堂、一九九九)


【執筆者:能島覚】