すみぞめのせいじゃ/墨染の聖者
前田聴瑞著。大正一三年(一九二四)五月、金尾文淵堂刊。内容は、内篇・選ばれたる宗教と、外篇・法然礼讃とに分かれる。内篇は法然伝で、特徴的なのは法然が本願念仏を選択したという叙述で、法然その人に焦点化した浄土教理解は、大正時代を代表するものの一つであろう。外篇は法然をめぐっての随筆等をまとめたものだが、宗教界の枯野に唯一残っていくのは、法然の宗教、すなわち弥陀の本願のみであるという確信に満ちた文章は、宗教が忘れ去られようとする時代への慨嘆とそれに抗う気概が感じられる。
【参照項目】➡前田聴瑞
【執筆者:東海林良昌】