一切智
提供: 新纂浄土宗大辞典
いっさいち/一切智
一切の物事について完全に知る智慧。仏の智慧。仏智。原語はⓈsarvajñaⓈsarvajñatā。薩婆若と音写される。仏は一切智を具えるものとして一切智者、全智者といわれる。声聞・縁覚の一切智と仏の一切智を区別して、仏の一切智を一切智智という。仏に特有の一〇種の智力である十力は、仏が一切智者であることを示す。『俱舎論』破我品では、仏は気持ちを発動するだけで望むままに何ごとも知る能力が具わっていると示される。また仏陀が全智者であることは、インド仏教論理学において他学派からの批判に答える形で、法称や寂護によって活発に議論された。天台宗の別教では一切智・道種智・一切種智の三智を順次に証得すると説き、円教では三智を同時に一心に証得する一心三智を説く。
【資料】『俱舎論』二九・三〇(正蔵二九・一五五上)、『無量寿経』上(聖典一・三一/正蔵一二・二六八中)
【参考】川崎信定「一切智」(『仏教・インド思想辞典』春秋社、一九八七)、同「一切智者の存在論証」(『講座大乗仏教九 認識論と存在論』同、一九八四)
【執筆者:北條竜士】